なぜ談合は悪いのか?――公共工事で余った880万円を返金しようとした、希望社の真意新連載・嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(4/5 ページ)

» 2010年12月03日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

談合システムは官僚による業界支配

 入札制度の問題について検討する前提として、建設業界を筆頭に多くの業界の入札を長年支配してきた談合システムには、そもそもどんな目的や機能があったのかを明らかにしたい。

 世間一般では、落札価格の高い公共工事を持ち回りで受注することを通じて、建設会社がみんなで生き残っていくための互助会制度として認識されることが多いが……。

 「明治維新以降、官僚たちが構築してきた国民支配の体制を維持することが目的です。官僚たちは公共工事を通じて、税金を建設業に分配する役割を果たしてきました。そして、この分配権を官僚が保持することで、官僚と建設業者の間に主従関係が構築されたのです。

 官僚たちは建設会社に、(民間工事よりはるかにもうかる公共工事を発注するという形で)利益を誘導してもうけさせ、その見返りに天下り先の確保や天下り先での厚遇、そして渡りという利権を確保してきたのです」

 しかし、2009年度の建設投資は約42兆円で、過去最高だった1992年度の84兆円のちょうど半分であり、2010年度は40兆円とさらに縮小する見込みだ。また、相次ぐ(官製)談合摘発により、あからさまな談合はしにくくなってしまった。こうした環境変化によって、官僚による業界支配力も衰微せざるを得ないのではないだろうか?

建設投資の推移(出典:社団法人日本土木工業協会)

 「ところが、そういう時代になってもなお、官僚たちは建設業界に君臨し続けるために“優良業者の支援※”と称して、企業間競争を回避する発注システムを強化し、高い落札額を維持しようとしているんです。最低制限価格を引き上げ、しかも、最低制限価格制度の自治体への導入拡大を推進してきたことからも、それは明らかです」。

※優良業者の支援・・・・桑原さんの説明によると、これはあくまでも「官僚にとって優良」ということ。その内実は、間接費の高い、どちらかと言えば大手のゼネコンを支援し、その他大勢の中小・零細業者の排除を志向するものだという。その典型が既述の総合評価方式で、「品質確保のためのダンピング防止」を理由に、価格以外の要素の評価点の比重を大きくし、実質的な競争を阻害しているという。

今の建設業界は官製談合そのもの

 最低制限価格の引き上げに関しては、厳しい経済情勢の中で、建設業界の雇用確保を目的にしているとされる。一見正論のようにも聞こえるが、上記のように建設投資額がピーク時の半分以下に落ち込み、今後も減少することが見込まれているのに、建設会社は最盛期と大差ない約51万社が全国に存在している。「果たして、これは経済合理性にかなっているのか?」という疑問が当然出てくるだろう。

 「それは言うまでもなく、建設業者が落札額や受注者を調整する仕組みによって“生かされている”からなんです。2009年に前原誠司国土交通大臣(当時)が『51万社が20万社に減ったとしても多過ぎる』と建設専門紙のインタビューで明言していましたが、その通りだと思います。官僚が納税者のために、企業間競争が促進されるような入札を行っていけば、建設業界は大幅縮減されます」

 官僚たちによる業界支配の維持強化という問題は、視点を変えると、官僚が自分たちの既得権益を守るために国民の税金を無駄に使い続け、その結果として、ただでさえ逼迫(ひっぱく)している地方自治体の財政状態をいっそう悪化させていることにほかならない。

 「税収が縮減し、財政支出を合理的に小さくしていくことが求められている時代なのに、現在行われている官僚たちによる『企業間競争排除+高額落札』は、まさに官製談合そのものだと思います」

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