バナナ自動販売機に秘められた恐るべき戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年12月01日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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バナナ自販機の野望

 消費者が商品を認知してから購買に至るまでの態度変容を表すモデルに、「AIDMA」がある。「注意(Attention)→興味(Interest)→欲求(Desire)→記憶(Memory)→購買行動(Action)」である。

 「Doleマン」のCMは面白い。テレビで目にすれば、確実に目が引き寄せられるし、興味も湧く。何度か見れば、しっかり記憶にも残る。しかし、自らとバナナの「接点」がなければ購買(Action)には至らない。ゆえに、スーパーに行かない・いけない人との購買接点として「バナナ自動販売機」は機能する。

 しかし、数台の自動販売機でカバーできるターゲットは限られている。ましてやバナナは生ものだ。「輸入→袋詰め→自販機に配荷→販売」というバリューチェーン(VC)の中で、加工度を高めて付加価値を上げる部分は袋詰めだけで、利益率は高くないと考えられる。生ものゆえに、廃棄率も低くないだろう。自販機の設置・維持費を考えれば、1本130円の販売価格は良くてトントンぐらいではないか。では、何のために自販機を展開するのか。

 「Doleマン」のCMを起点とした上記のAIDMAを見ると、欲求(Desire:購買欲求)がスッポリ抜けていることが分かる。欲求が起こらなければ、コンビニやスターバックスでバナナを見ても手にとって購入することはない。

 ダイエットという特殊な購買理由を持った層。そして、筆者以上の世代に多い、バナナが貴重品であった経験から、日常的にありがたく食べる層やその家族にとっては、バナナは身近な存在だ。しかし、バナナから縁遠くなってしまっている層にとっては、自らが「購入する」という行動を起こすこと自体が認識の範疇になくなる。「Doleマン」はあくまで、テレビCMのコンテンツの1つとして消費されていて、認知はされても、欲求を喚起することはない。

 バナナ自動販売機の重要な役割。それは、バナナと縁遠くなっている層に、「そういえば、バナナ買って食べてもいいな」と「自分のこと」として注意を喚起し、購買欲求を起こさせることなのだ。

 バナナ自動販売機が話題となってメディアやTwitter、ブログで取り上げられる。注意(Attention)→バナナ自動販売機という存在が面白く、興味(Interest)を持つ→いろいろな人が買っているという報道・情報に触れることによって、自分も機会があれば購入してみようという欲求(Desire)を持って、記憶(Memory)する→自販機に接触しなくとも、コンビニやスタバ、もしくは久々にスーパーに行った時、バナナが目に触れて購入する(Action)。

 消費者に向けて、広告という刺激を与えること。自動販売機という購買接点を展開すること。それぞれを単発で行っても最後の購買行動まで誘導することができなければ、商売としては完結しない。また、限定的な購買接点(自動販売機)だけでなく、さまざまな接点に向かわせる方が販売を完結できる可能性が高くなる。つまり、「バナナの自動販売機」は、広告だけでカバーできないターゲット層の購買を喚起するためのAIDMAを補完する機能を担っているのではないか。

 2010年9月6日付日食外食レストラン新聞の記事では、「渋谷ではバナナを購入するだけでなく、携帯電話で珍しい自販機を撮影して写メールを送る若者の姿も多く見られる」と報じ、「日本の1人当たりの果物消費量は、米国人1人当たりの約半分」と、ドール・マーケティング部のコメントを紹介している。

 米国など欧米では、リンゴやバナナをランチに食べる姿を当たり前のようによく見かける。日本の消費者にも、同じような習慣が身に付けば、バナナ市場はこれからも拡大の一途をたどるはず。ドールは今後学校やオフィスにも自販機を導入する予定といい、日本特有の“自販機カルチャー”をうまく使いながら、日本人のバナナに対する認知や、食習慣を、変えていくことにチャレンジしているようにも見える。ハードルは高いが、面白い挑戦だ。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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