“リアルな予行演習”を危機管理に生かそうちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年11月29日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

リアルな予行練習

 さて、この3つのうち最も効果が高く、一方で実行が難しいのが「予行演習」です。マニュアルを作ることや保険をかけることはお金さえかければできます。しかし、予行演習では「本当に起こる時と、まったく同じ状況を作り出す」こと自体が困難です。

 例えば、飛行機のクルーや消防団、軍隊は「仕事としての予行演習」を頻繁にやっていますが、実際に災害や危機が起これば、多数の一般人が事態の一番の主役になります。けれど、その「パニックした一般人」が参加した予行演習をすることは極めて難しいです。

 ところが時々、「リアルな予行演習」と言えるような事態が起こる場合もあります。

 2005年の千葉県北西部地震の際、東京都は「緊急招集に応じる」という条件で都庁付近の住宅に住まわせていた職員に、緊急招集をかけました。ところが、該当する34人中13人しか緊急呼び出しに応じなかっため、招集に応じなかった人は、後にこの都心の格安な住宅から退去させられます。

 このケースは、来たるべき「東京での大災害」に備えた予行演習として極めて効果的に機能したわけです。なぜならこれが最初から緊急訓練であったとしたら、職員は全員がちゃんと参集したでしょう。それでは何の問題も浮かび上がりません。このように「リアルな予行演習」というのは、非常に大きな意味があるのです。

 ちょっと古い話ですが、1997年の金融破たんの時も同じでした。11月に三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が相次いで破たんした時期は、大蔵省(当時)も日銀もマーケット参加者も大混乱しました。特に、一番最初の三洋証券が会社更生法を申請した際、インターバンク市場でデフォルトを起こしたことは関係者に大きな衝撃を与えました。これについても、実際に起こるまでそのインパクトは理解されていなかったのでしょう。

 しかし、これらが「リアルな予行演習」となり、翌年の日本長期信用銀行や日本債券信用銀行の破たんでは、金融市場のパニックを最小限に抑える策がとられました。さらに、2003年のりそな銀行国有化の段階では、金融機関の破たん救済方法について当事者内には相当の知見が蓄積されていたと思われます。

 どんなに事前に備えていても、実際に起こってみないと学べないことはたくさんあるのです。その意味では、今年9月に起きた日本振興銀行のペイオフでも、金融庁や日銀は机上の学びを超えた多岐にわたるノウハウを手に入れたでしょう。

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