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» 2010年11月26日 08時00分 UPDATE

時間と空間をゆがめるのが特徴――ジブリ・鈴木敏夫氏が見る日本アニメの現在と未来(後編) (1/5)

スタジオジブリ作品のプロデューサーとして、さまざまなヒット映画を手がけてきた鈴木敏夫氏。ASIAGRAPH2010で創賞を受賞した後に行われたシンポジウムでは、声の出演に俳優を起用する理由や、日本アニメの特徴やその未来について語った。

[堀内彰宏,Business Media 誠]

 スタジオジブリ作品のプロデューサーとして、さまざまなヒット映画を手がけてきた鈴木敏夫氏。その日本アニメや文化への貢献が認められ、ASIAGRAPH2010で創(つむぎ)賞を受賞した。

 贈賞式の後に行われたシンポジウム(聞き手:西村知江子氏)の前半「鈴木敏夫プロデューサーが語る、スタジオジブリ作品の創り方(前編)」では『借りぐらしのアリエッティ』を例に、プロデューサーの仕事について解説した鈴木氏。後半では、スタジオジブリが声の出演に俳優を起用する理由や日本アニメの特徴、そしてその未来について語った。

ah_suzu1.jpg フリーアナウンサーの西村知江子氏(左)とスタジオジブリの鈴木敏夫氏(右)。あぐらをかいた方が落ち着くと聞いた西村氏にうながされて、鈴木氏は靴を脱いで話している

ハウルの声にキムタクを起用した理由

ah_suzu2.jpg 『耳をすませば』

西村 ジブリ作品ではいわゆるアニメの声優さんではない女優さんや俳優さんが声の出演をしていますよね。『となりのトトロ』のお父さん役の糸井重里さん、『耳をすませば』のお父さん役の立花隆さんなど。

鈴木 さっき(前編)のことと関係あるのですが、ジブリでは衣食住を中心に描くわけなので、日常芝居が多いんです。そうすると、芝居も大げさだと困るんです。普通の芝居ができる人でないといけない。声優さんの芝居は、ハレ(非日常)とケ(日常)で言うとハレなんです。僕らが欲しいのはケなんですよ。

 例えば、『となりのトトロ』のお父さんはなぜ糸井重里さんなのか。僕は『となりのトトロ』のお父さんは、ちゃんとしたお父さんではないと思った。自分の研究に没頭して、家のことはあまりやっていませんから。

 昔のちゃんとしたお父さんなら、威厳がある重厚な役者が欲しいんです。糸井重里さんは威厳がないですよね。それが欲しかったんです。お父さんであって、お父さんでないという。役者さんでそんなことができる人はいますか? そうやって考えるんですよ。

 『耳をすませば』のお父さんの声を考える時、僕らが最初に思ったのは「普通の役者じゃダメだよね」ということです。今のお父さんの特徴というのはお父さんであってお父さんでない、無責任ということです。何とかお父さんをやっているけど、ちょっとくたびれているかな、ということで方言が欲しくなったんです。それで立花隆さんなんです。僕は「もう1回、糸井重里さんでもいいんじゃないかな」とも言っていたのですが。

ah_suzu3.jpg 『ハウルの動く城』

 『ハウルの動く城』でハウルの声にキムタク(木村拓哉氏)を起用したのですが、みんなにいろいろ言われましたよね。「これでお客さんを呼ぼうとするのか」とか。だいたい言いたくないのですが、その時、僕や宮崎はキムタクってほとんど知らないんですよ。

 真相を話すと、要するに「ハウルはどういう男か」ということなんです。僕と宮崎の間で共通に決めていたことがあるんです、「男のいい加減さを持ったやつ」と。そうすると、この声は誰にやってもらったらいいですか?

 本当に悩んでいたのですが、そんなある時、木村さんの方から出演のご希望が来たんです。僕は宮さんよりは世の中のことが分かっているので、「確かに人気がある人だよなあ」と思いました。そこで、娘に「キムタクってどういう人なの?」と聞いてみたんです。そうしたら「いい男だよ」と言って、その次に「いろんなこと言うんだけど、真実味がないんだよね」と(笑)。「これはいける!」と思ったんです。

 それでとにかく声を出してもらうと、もう宮さん大喜びですよ。あっという間にセリフをこなしていって、宮さんの直しはほとんどなし。だって、男のいい加減さなんて難しいですよ。昔で言うと、森繁久彌さんだったらできたでしょうね。今の役者さんは、みんな真面目じゃないですか。ただ逆に言うと、みんな幅がないんです。「お父さん役をやって」と言ったら、普通のお父さんしかできない。「いい加減なお父さんをやって」と言ってもできないんですよね。

西村 『ハウルの動く城』ではソフィーの声の倍賞千恵子さんもすごく好きでした。

鈴木 いろんな人の声を聞いたんですよね。宮さんはテレビドラマも映画も見ない人なので。「若い時もおばあちゃんになってからの時も、1人2役でできないかなあ」ということで、宮崎駿が最初に推薦した人が実はいたんです。東山千恵子さんという方です。でも、その時お亡くなりになったんです。

 東山千恵子さんの特徴はおばあちゃんになっても少女の声ということ。「そういう人はいないか」と考えていって、倍賞千恵子さんに行き着いたんですね。

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