焦らせる“大人”に騙されてはいけない。就活の問題点に迫る吉田典史の時事日想(2/4 ページ)

» 2010年11月26日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 入塾後、受講生たちは、まずA4のレポート用紙に自らの仕事観を書く。赤堀さんがそれらを読み、赤色のペンで詳しく添削する。このやりとりは、何度も繰り返される。多い人は丁寧な指摘を受けながら、15枚ほど書く。下の写真は、ある大学生が学習塾で講師をした経験をもとに書いたレポート。添削が赤色で隅々まで書き込まれているのが分かるだろう。

赤堀さんは赤色のペンで詳しく添削する

 例えば、右端の上から3つ目にこう書かれてある。「この数字が、周りの講師と比べてよいのかどうかと書けば、説得力が増す」。確かに数字をより具体的に書くと、読み手である試験官はイメージが湧くに違いない。

 しかしこうしたやりとりは、内定を獲得するための塾の教え方と似ている。それを赤堀さんに尋ねると「採用試験を突破するためのテクニックを教える場ではない」と言い切る。さらに「もちろん受講生が内定をもらえるように支援をしますが、仕事観を明確にしたうえで試験に臨まないと、結局、泣きを見ることになりかねないのです」

 確かに添削をじっくりと読むと、仕事への考え方についてさまざまな助言や問い掛けをしていく内容になっている。おそらく、赤堀さんの頭の中にはそれぞれの学生にとっての“模範解答”のようなものがあり、本人がそこに気づくように添削をしているのだろう。

 ただし、それを押し付けることはしない。あくまで受講生が自ら考えるように誘っている。私もこういった添削の経験があるのだが、このあたりの指導は実に難しい。赤堀さんがそれをそつなくできるのは、大学院で教育学を専攻してきたことも影響しているのではないかと思う。

 この仕事観を明確にする試みは、いわゆる「自己分析」とも違うという。「仕事観がない中での、自己分析に意味があるとは思えない。仕事観をベースにした分析をしないと、会社に入ったあとも苦労する」と冷静に見据える。

 「仕事観を明確にすると、自己責任の意識も芽生える。これがないと、会社に入ってうまくいかないと、上司など他者の責任にしていく。そして会社を変える。だが、そこでも同じような問題にぶつかり、辞めていく。“雇用流動化”と言われていますが、このあたりの考えがあいまいなままで会社を変わっていくことは考え直したほうがいいでしょうね」

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