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» 2010年11月25日 08時00分 UPDATE

鈴木敏夫プロデューサーが語る、スタジオジブリ作品の創り方(前編) (4/5)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

メッセージで映画は観ない

西村 ジブリ作品というと、テーマがしっかりしているとか、伝えたいメッセージがあるとかよく言われますが、そういうことは最初の段階でイメージしているんですか。今、お話をうかがっていると、そうではないのかなとも思うのですが。

鈴木 答えが分かっていて、おっしゃっているんですかね(笑)。当たり前ですけど、メッセージで映画は見ないですよね。だから、僕と宮崎とで昔、決めたことがあるんです。当たり前のことなのですが、当たり前になっていないことだったので。

 大事なことは3つある、と。1つ目はまず「面白い」こと。2つ目は「少しくらい言いたいこと言っていいかな」と。メッセージやテーマを先行させる場合もあるんですけどね。3つ目は僕らが作っているのは商業映画なので「お金をもうけよう」と。そうでないと、次の作品が作れませんから。

ah_suzuki7.jpg 『となりのトトロ』

 例えば、『となりのトトロ』を作った時、「人間と自然を描いたテーマ性がすばらしい」とか、いろんな方から高い評価をいただきました。しかし、「僕らが作っている時に、果たしてそれを考えていたか?」なんです。確かに「本来、子どもは自然の中で遊んだ方がいい」とか「トトロは森の精だ」とかは考えましたよ。でも、そのことを高らかにうたおうとか、そういうことは考えませんでしたね。

 どんなことを考えて作っていたかというと、非常に具体的なんです。トトロというお腹が大きいキャラクターが出てくるのですが、そのお腹は押したらへっこむかなんです。トトロのお腹を押したらへこむって大変なんです、実は。メイちゃん(主人公姉妹の妹)がほこらに行って、トトロのお腹で跳ねるのですが、これを描けるアニメーターは世界広しといえど、ほとんどいない。これが宮崎駿の魅力なんです。『となりのトトロ』の絵コンテは宮崎駿が描いたのですが、ほかの監督に「同じもの描いて」と言っても、たぶんできないと思うんですよね。

 トトロは線で描いてみると分かるのですが、非常に単純ですよね。その単純な絵で、お腹を押したらへっこみそうというように描くのは本当に難しい。そういうシーンをどれだけ設定できるかが大事なんです。高畑勲や宮崎駿の何が優れているかというと官能性なんです。理屈じゃない。触った感触が伝わってくるように描けるかどうかがアニメーターにとって重要なんです。

 細かく描ければいいというものではないんです。みんな細かく描いているだけで、肝心の官能性がないんです。トトロなんて全然細かい絵ではないのですが、単純な線で、(動画の)枚数も少なくして、お腹を押したらへっこみそうという表現をやってのけている。それが何かといったら才能なんです。

 そういうことを宮崎駿は日々研究してきたんですよね。細かく描いたら、お腹は押してもへっこみません。だから、本当に優れたものは大雑把に描いてあるんです。いかに少ない線である感じを出せるか、ここがポイントですよね。枚数を使ったり、細かく描いたりすればいいというものではなくて、細かくやればやるほど逆の効果が出るんです。それができる人はほとんどいません。

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