日本に不足しているのは、形のないサービスを売るための科学的なアプローチである。「サービスの科学(サービスサイエンス)」は正式にはSSME(Service Science、Management and Engineering)と言い、2004年にIBMが提唱してから注目されている新しい学問領域である。一口にサービスといっても、ホテル・飲食店から保険・金融などさまざまで、その領域は広い。
SSMEの論文をみると、欧米の研究者が言うサービスと、日本人の言うサービスとに、ニュアンスの違いを感じる。「この違和感は何だろう」としばらく考え、「チップを払ってサービスを受ける習慣の国と、サービスは無料の奉仕とする日本との違いではないか」と思い至った。
サービスという形のないものに対して我々は、それを部分で切り離して値札を付けるという習慣があまりにも少ない。日本に住んでいると、一様に親切な応対が無料で受けられ、サービスが物の価格に含まれることに慣れてしまっている。
さらに、サービスを大事に思うあまり、科学の対象として見られなくなっている。サービスとなると、「お客さまは神さまである」という言葉通りに、「とにかく全精力で取り組むべき」という精神論になる。あるいは、この言葉が逆に作用して、「お客さまのため」といっては些細(ささい)な仕事が正当化されることもある。このように、All or Nothingの議論になりがちである。
どこまで無料で、どこから有料にするか。サービスに段階を付けて、それに見合った価格を付けるためには、データ分析などの科学的アプローチが役立つ。ところが日本では、血の通ったサービスができなくなると、科学的な数値管理を拒絶する風潮がある。特に、プロのクリエイターの感性を重視する日本のゲーム開発では、科学的管理によってそのクリエイティビティが落ちるのではないかと不安が生じる。
ソーシャルゲームのデータ分析では、すでにあるゲームに対する顧客の反応を知ることで、最大公約数的な「面白さ」を知ることができる。今までにはない「面白さ」を提供するプロのクリエイティビティとは、対極にある思想である。この2つを折衷させ、日本流の「サービスの科学」を実践することで、新たな活路を見出せないかと考える。
成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。
公式Webサイト:Nojima's Web site
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング