ネットでも違う。中国のネット人口は4億人を超えているものの、普及率はまだ30%で成長の余地は大きい(日本は8000万人で75%)。中国のテレビや新聞など公的メディアには当局の統制があり「つまらない」という声も多い。もともと知人のクチコミに頼る価値観も根強いので、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の参加者は多く、中国版Facebook「人人網」の登録者数は1億5000万人、「Qzone」のブロガー数は1億2000万人。
「なぜ、どんな気持ちでツイートするのか? なぜ動画を投稿するのか? その内面を知らないとキャンペーンは失敗します」
1つのエピソードを聞いた。オンラインクーポンを配布したケンタッキーフライドチキンは、予想をはるかに超えるスピードでクチコミが波及したことで店舗に客が殺到。チケットの配布を停止する騒ぎとなり、一時全国3000店舗のほとんどが閉店に追い込まれたのだという。
それでふと、私の中国ビジネス体験を思い出した。1990年代後半、何度か北京や上海に出かけた。商談に行くたびに、お土産をたっぷり買いこんだ。こちらは2人で訪ねるのだが、先方は10数人も出て来るので、あれよあれよという間にお土産が底をつく。デジタル時代でもその心理は変わらないのだろう。しかも名刺の数は増えても、話は一向に進まないから嫌になった。
一方、成功した企業もある。DHCは化粧品事業で中国に進出するに当たって、若年層がネットや携帯電話への依存度が高いことに注目、ネットと携帯電話のショートメッセージを活用した通販システムを構築した。さらにサンプリング配布と会員制を導入、リアル店舗で「手にとれる」「お試し」もできる重層的なマーケティングを展開。現在、400品目以上の化粧品を販売している。
地縁血縁の国では何もかも「縁を作るまでが辛抱」と言われた。縁を作るには杯を干すこと、真昼間から紹興酒を10杯飲んでも倒れないことが大事だ。私は何とか倒れなかったが、酔った挙げ句、工場見学でビデオ機器を落として凹ませてしまった。それ以来、私の中国ビジネスは凹んだままだ。
私のように凹まなかった太田さんは、「マーケティングこそ現地調達」と考えて中国企業との経営統合に踏み出した。業務提携から始め、上海億目広告有限公司をYMG BILCOMに社名変更し、BILCOM China(新設会社)に譲渡。これを存続会社とする。ビルコムからはまず2〜3人を選抜して派遣するという。
「どんな社員を派遣するのですか?」と中国に派遣する社員像を聞いてみた。
「本能がある人です」
「本能とは?」
「目標達成意欲が強いこと、上昇志向があること。差別しないこと、リスペクトすること」
最初の2つは分かる。低成長が続く日本では「ほどほどでいい」という人が増えた。だが今の中国はまさに日本の1960年代、高度成長市場。その市場にほどほど派が行ってもうまくいかない。
深層心理は後の2つの中にある。私は、日本人が中国を分かろうとしないのは、優位にあるがゆえの怠慢だと思っていた。だが違う。中国が成長し、もはや優越感を持ち得なくなった事実が、「分かろう」という心理を阻んでいるのだ。「特殊な市場」で片づけ、本気でビジネスをしない言いわけにしている。
1960年代に日本車が米国に挑んだ時、最初はハイウエーでまともに走らなかった。技術、販売、アフターサービス、すべてゼロから組み上げた。今、中国に挑む日本は、性能も販売もアフターサービスも一流。だがうまくいかない。それはいつの間にか日本がグローバルニーズを読むことを止めてしまったから、従来の成功の延長線上で仕事をしているからではないだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング