最新オランダのアート&デザインのエッセンスが凝縮(3/5 ページ)

» 2010年11月17日 08時00分 公開
[草野恵子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

 来場者が体験し、参加していく形式の作品を複数展開しているのが、マルタイン・エングルブレクト氏だ。街なかで作品を展示する形で、人々が先入観なしに作品に対峙してくれることを心がけており、今回のように美術館の中で作品を展示するのは初めての試みだ。

エキサイトイズム レストラン「Rest」/自動販売機、ピクニックテーブルを含むインスタレーション

 今回の展示の真ん中にある「Rest」。巨大なピクニックテーブルと自動販売機を含むインスタレーションで、このテーブルに実際に登って、座って休憩できるようになっている。「Rest」というタイトルには、「レストラン」や「休息」といった意味と、「余り物」という意味合いが含まれている。残念ながら、今回の展示では食べ物を持ち込むことはできないが、オランダ国内での「Rest」展示は、オープンエアのレストランとして野外に設置され、実際に余り物だけで作った料理が提供された。収穫された作物の約35%が規格外などの理由で廃棄されてしまう現状に対しての、問題提起となっている作品なのだ。

 今回の展示で持ち込まれた“料理”は、じゃがいもの自動販売機(下写真)。販売されているのは、すでに芽が出つつあるじゃがいもだ。これを土の中で育てることにより、3カ月後にじゃがいもが食べることができるという「究極のスローフード」だと、エングルブレクト氏は語る。そこには、すぐ買って食べたり飲んだりできる「自動販売機」というものに対してのユーモアを交えた問題提起も含まれている。来日中のマルタイン氏に詳しく話を聞いた。

――作品はすべて参加型で、とてもユニークですね。

 ありがとう。ただ観るだけではなく、さわったり、どこに入るかを選んだりすることが重要な作品なんです。

――中でも「ご近所ショップ」にはちょっと笑える不思議なアイテムがたくさん売っていて、面白かったです。「ご近所同士のコミュニケーション」と題したアイテムが、ひもと小さなバケツをセットにしたものだったり、ご近所さんの「涙をふいてあげるためのハンカチ」が150円で売られてたり。

 笑うことは新しく絆を作ることで、とても重要なことだと思っています。ユーモアは人々をオープンにさせるということで、大事なことなんですよ。

エキサイトイズム 「ご近所ショップ」インスタレーション

――今回の展示のあちこちに「Please Touch」と書かれた表示があります。これは「Please don't Touch」というお決まりの表示に、ある種の冷たさを感じて「Please Touch」としているように感じました。日本には「言霊」という考え方もありますが、マルタインさんは言葉に含まれるパワーを信じているのでしょうか。

 はい。わたしも言葉や文字にエネルギー、パワーがあると感じていますし、同時に、つねに言葉というものは始まりだということを感じています。わたしは、最初はグラフィックデザインをやっていました。今回の展示にもありますが、YES・NOのチャート式のアンケートを作っていたんです。しかし、紙を見るだけじゃなくて「外に目を向ける」ことを人々にしてもらいたいと思うようになりました。そこで、街なかにお店を突然出現させるプロジェクトを始めるようになりました。人と人とのつながりが、どんどん広がっていくことをイメージしたプロジェクトです。

――日本で同じようなことをすると、警察が来て注意されてしまうでしょう。オランダではいかがですか?

 ときどきそういうことがありますよ(笑)。アートをやるには勇気が必要なんです。人々はあるルールに沿って生きているわけですが、ときにはそれを破る必要が出てくることもあると思います。以前、こんなことがありました。レンガを4万5000個用意して、みんなで1つのモニュメントを作るというプロジェクトで、実際にその街のそれぞれのお宅にきれいに紙に包んだレンガを渡しに行きました。1万個配ったところで、市長さんに怒られてしまったんですね。渡したレンガがモニュメントを作るのではなく、窓に投げ込んだり危険なことに使われては困ると。今回の展示では、とても小さなレンガ(ブロック)を2万1000個、用意しています。これをみなさんの手で積み上げることによって、「東京モニュメント」を作ろうとしています。

エキサイトイズム 「小さな東京モニュメント」 2万1000個のブロック、セメントによるインスタレーション

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