最新オランダのアート&デザインのエッセンスが凝縮(2/5 ページ)

» 2010年11月17日 08時00分 公開
[草野恵子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

 一方、マーティン・バース氏を語る上で欠かせないのが、時計を題材とした一連の「Real Time」シリーズだ。iPhoneアプリまで登場しているこのシリーズの根底に流れるのは、刻一刻と過ぎゆく時間を紡いでいるのは、小さな営みを重ねる人間自身だということ。とても詩的なシリーズ、じっくりと時の流れを感じながら、その動きを見てほしい。

エキサイトイズム 「スウィーパー・クロック」Real Timeシリーズより(2009年/ビデオ/作家蔵)
エキサイトイズム 「グランドファーザー・クロック」Real Timeシリーズより(2009年/黒色の合成樹脂、ブルーレイ・プレイヤー、ブルーレイ・ディスク、スクリーン/作家蔵)

 過激さ、その一方で繊細さとユーモアを感じさせるマーティン・バース氏の数々の作品。彼の発想の源はどんなところにあるのだろう? 来日したバース氏に聞いた。

――着想がとてもユニークで、さらにそれを思いがけないやり方で実現していると思います。発想はどこから生まれるのでしょうか?

 普通のデザイナーはテクニック、素材、機能といったところからデザインを始めると思うのですが、自分の場合はあらゆるところから着想を得て、デザインをしていきます。どうやらほかのデザイナーとはアプローチが違うようですが、決してわざとやっていることではないんですよ。わたしの場合は、こういうやり方でしかできないんです。(ほかのデザイナーが行う)コンピュータでデザインをして、そこから作るという方法をやったことがないですし、やり方も知らないのです。わたしの場合は、まず手で何かを作ってみて、考えていきます。わたしにとっては、これが論理的な方法なのです。だれかを挑発しようと思って手がけていることでもないですし、いえることは「これがわたしなんだ」ということ。作りたいものを作っているということです。

エキサイトイズム

――現在進行中のプロジェクトについて、教えてください。

 アイントホーフェンの市民ホール向けのインスタレーションを現在作っています。目下、作業中ではあるのですが、とても小さな家があって、その上に「グランドファーザー・クロック」が設置される予定です。高さは5メートルほど。イメージとしては、その小さな家に人が住んでいて、その人が時計を動かしているような感じですね。

――それは楽しみです!

 それから、12月にリニューアルオープンする、オランダのグローニンゲンミュージアムのレストランも手がけています。テーブルや椅子もすべて「クレイ・ファニチャー」を入れる予定で、現在、実用化に向けて最終的な詰めを行っているところです。パブリックスペースでクレイ・ファニチャーを使うことは初めての試みなので、新しい技術を開発して、新たなものを作っています。これまでのクレイ・ファニチャーは展示用として、上から着色を施したものになるのですが、今回はクレイ自体に顔料を混ぜて作っています。このクレイは、簡単に色が変えられる便利な素材。そのため、あえて少し微妙に色の差が出るように作っています。

エキサイトイズム クレイ・ファニチャーシリーズ

――それでは、いまいちばん作りたいと思っているものは何でしょうか。

 わたしは甘やかされたデザイナーで、自分が作りたいものを作れる、非常に恵まれた環境にいます。レストランを作りたいなと思っていたら、もうすぐ実現してしまいますし……。夢より現実が先に行っている感じなのです。現実のスピードの方が早い。

――日本の企業とコラボレーションする予定はありませんか?

 特にいまはないですけれども……。もちろん僕自身はオープンな状態ではあるのですが。

――では、何かオファーがあればやる可能性があるということでしょうか。

 日本のハイテクな大量生産のプロダクトについてオファーが来たら面白いとは思いますね。でも、日本ではミニマムなデザインが好まれるから、私のようなデザイナーが呼ばれることはないんじゃないかと思いますが……。

――今回の展覧会は、オランダのアートとデザインを同時に取り上げる画期的な展覧会だと思います。アートとデザインについて、どのような違いを感じられますか。

 わたし自身は、アートとデザインの境界線を取り払いたいとつねづね思っています。そういったボーダーを取り払った斬新な試みとして、今回の展覧会には非常に意義深いものを感じています。

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