モノを買わずに寄付をする若者たち(2/2 ページ)

» 2010年11月17日 08時00分 公開
[猪口真,INSIGHT NOW!]
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寄付やボランティアに走る若者たち

 こうした状況の中見え隠れするのが、消費ではなく寄付やボランティアに走る若者たちの姿だ。私の周囲でも、積極的にNPOやNGOに参加し、資金的な援助のみならず、実際のボランティア活動に精を出す人たちが増えている。特にその傾向は20代や30代の若者に顕著だ。

 実際に一流企業に勤務しながらボランティアに応募してくる人も多く、もちろん自分自身でビジネスを立ち上げながら参画してくる人もいる。10年前なら、ビジネスを楽しみながら生活を謳歌する立場だったと思える人たちが、今はボランティアや寄付イベントに積極的に参加する。

 一方、消費は冷え込んでいる。所得もほとんど伸びていない。にもかかわらず寄付をするのだ。決してお金が余っているから寄付しているのではない。ただの寄付なら、何もこうしたNPOやNGOを利用しなくても昔からある。彼らが望むのは、寄付活動を通じたコミュニティの中でのつながり、参加意識、達成感を得ることだ。

 NTTデータ経営研究所が発表した「働きがいに関する意識調査」によると、「働きがいを感じている」と答えた30代は9.4%しかいない。

 また、「3年前と比較して、働きがいはどのように変化していますか」の質問に対し、約半数の人が「働きがいが低くなった」と感じているという。一方で、「働きがいが高まった」と感じている人は22.5%にとどまっている。さらに、「働きがいが低くなった要因」は「会社の将来性が感じられないから」(42.7%)、「今の仕事を通じて、達成感を感じられないから」(33.3%)の順となっている。

 この結果を見て、40代後半以降は「もっと仕事に打ち込めば、やりがいが生まれてくる」「悩む前に一生懸命やれ」などと言うかもしれない。

 しかし、もはやそこに答えはない。彼らにとっての仕事とは、達成感や周囲への貢献、社会とつながり、他人とのコミュニケーションを図る手段として満たすことができるかどうか、という側面が強い。その条件を仕事が満たすことができなければ、仕事以外に求めていく。

 こうした傾向は、消費傾向にも現れている。AppleやIKEAの成功は、これまでのマーケティング理論では片付けられないことが多い。機能やコストだけでは説明することは難しい。利用者や顧客は、至れり尽くせりのサービスが受けられるわけでもなく、むしろ負担や犠牲、不便さを強いられる場合もある。さらにその状態を楽しむことすらある。

 モノが売れないのではなく、彼らのニーズを満たすモノやサービスがまだまだ少ないのだ。彼らは自分自身の独自性、自分の居場所の確認、社会に対する参加意識を得るためには、犠牲はいとわない。いよいよ作り手側に新しい「モノづくり」への価値観が必要になってきた。そうしない限り彼らの消費意欲を喚起することは難しいだろう。(猪口真)

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