尖閣ビデオを見て、民主党の“限界”が透けてきた相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年11月11日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先週来、尖閣諸島沖の中国漁船と海保巡視艇衝突事件の動画がネット上に流出し、世間の耳目を集めている。機密性の高い動画の流出経路の検証などは他稿に譲るとして、 今回の一件は政権与党・民主党の大きなターニングポイントになると筆者はみる。民主党政権が掲げる「政治主導」なるスローガンがもはや限界に達したことが、今回の流出事件に深く関係しているのは明白だ。

しらけ顔

 民主党政権が誕生して1年余。筆者はさまざまな場面で現役官僚の声に触れてきた。多くの官僚達が口にしてきたのが、「お手並み拝見」というキーワードだった。政権交代を果たした当初から、民主党が“政治主導”のスローガンを多発したため、現場の官僚達はその動向を詳細にチェックしていたわけだ。

 新政権発足当初こそ、彼らは民主党の有力政治家、政権中枢部の動向をつぶさに観察し、身構えていた。だが、最近は「事の善し悪しは別にして、政治家に指示された通りに動くことに徹している」(某主要官庁の中堅幹部)との声が大半になったのだ。

 “事の善し悪しは別にして”という言葉にご注目いただきたい。

 天下りや渡りといった問題のほか、各種の税金無駄遣いという世間の批判はあるにせよ、主要官庁の官僚はその道のプロ集団であり、「霞ヶ関全体が強大なシンクタンク」(某野党議員)であることは間違いない。

 長期に渡る自民党政権下では、実質的に官僚が政策を作り、代議士はそれを是認してきた。民主党政権誕生の要因の1つとして、長年の官僚支配から脱するという意図があり、国民がこれを熱狂的に支持したのは間違いない。

 ただ、新政権に移行後、日本航空の再建問題、沖縄の在日米軍の移転問題が迷走した結果、日米関係がかつてないほどに冷え込んだ。最近では日米同盟のほころびを突くように、日中、日露関係までもがぎくしゃくし、外交的に日本は機能不全を起こしている。

 一連の出来事の背後では、心ある官僚達が国益を第一に考え、政治家に意見をしてきた。だが「政治主導という錦の御旗を持ち出され、ことごとく退けられた」(別の官庁の幹部)。こうした事例が積み重なるうち、先に触れたような“事の善し悪しは別にして”というしらけムード、しらけ顔の官僚が霞ヶ関全体にまん延してしまったのだ。

 主要な新聞、テレビで報じられる機会は少ないが、民主党政権がドタバタを繰り返しているのは、官僚機構という強大なシンクタンクがソッポを向いていることの裏返しなのだ。自民党政権時代を擁護するつもりは一切ないが、外交や通商問題、国際金融などの分野で現状ほどトラブルが続出した場面があっただろうか。

 換言すれば、今までは陰に日向に官僚が走り回り、国益を守ってきたのだ。現在は政治主導の名の下、こうした官僚の動きが封じ込められ、混乱が拡大している状態といえよう。

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