新卒の採用開始時期を遅くすると、何が解決するのか?(1/2 ページ)

» 2010年11月09日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 大手商社が大学4年生の4月以降に採用活動を行う方向になっているようで、目的は「就職活動の早期化・長期化が大学運営や学生生活に影響を与えすぎている状況を正常化することである」と言います。私としてはこの目的には賛成で、就職活動が理由で授業に出られない、クラブ・サークル活動ができない、といった就職活動が学生から学ぶ機会も楽しみも奪っているような面があるなら是正が必要であろうと思います。

 しかし、多くの人が指摘する通り、大学4年生になってから(それも選考はもっと遅くから)就職活動(採用活動)を行うようにするという方法は、この状況を根本的に解決できる策ではありません。

 学生は受けられる会社数が減るので、一発勝負の色合いが強くなり、就職に対する不安が高まるものと思います。表立って就活をする学生を見ることが減っても、学生生活に集中できるようになるわけではないでしょう。採用側にとっても、人気業界が「後だしジャンケンをします」と言っているわけですから、先に内定を出しにくくなるなど採用活動が難しくなるでしょう。短期決戦になれば知名度はもちろん、人や金が豊富な大手有利の傾向がますます加速すると思います。

学生が職業や就職を意識するのが遅すぎる

 「何が問題か」が重要ではないのでしょうか。「企業の採用活動の無節操さが、大学運営や学生生活のじゃまをしていること」が問題なのかどうか。私は「学生が職業や就職を意識するのが遅すぎる」ことを問題にしてみてはどうかと思います。

 社会に出て働くことをまったく意識させずに放置して、いきなり職業や就職を考えさせ、選択させることにはやはり無理がある。成り行きで社会に出ても、それなりの給与を支払いながら余裕を持って育ててあげることができる会社がたくさんあればいいのですが、そういう世の中ではなくなったので、やはり「早いうちから意識させる必要があるのではないか」ということです。

 本来なら子どものころから、父親や母親がそういう教育をすればいいのでしょうが、そうもいかないのであれば、中学校や高校からもっともっと本気で専門の教員や中高生版キャリアセンターが職業やビジネスを教えればいいのではないかと思うわけです。

 証券会社が将来の個人投資家を増やそうと、学校に出向いてお金の運用や投資を教えているものがありますが、そういうレベルの話ではありません。

 「公務員や大企業が安定しているようだ」「●●業界や●●業界はシンドイので早く辞める人が多いそうだ」「営業はノルマに追いまくられるに違いない」「旅行・食品・化粧品・パソコン・マスコミなど、なじみある商品に仕事のイメージがわく(だから人気になる)」「有名企業に入ったら、かっこいい」「大学の専攻が●●、だから●●業界に行くのが当たり前」など、あまりに表面的な理由で会社を選んだりしないようにするためには、もっと早くから職業やビジネスを教えてあげる必要があるでしょう。「つぶしがきくから法学部に行ったらいい」などと言う教師や親の進路指導も、いい加減にやめるべきではないかと思います。

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