蘇ったCanon Dial35の描画力-コデラ的-Slow-Life-

» 2010年11月09日 08時00分 公開
[小寺信良,Business Media 誠]

 ハーフカメラとしては絶大な人気を誇るCanon Dial35。それゆえにジャンクもあまり見かけないのだが、今回運良くゲットしたブツは大変なシロモノだった。

 以前にも分解したことがあるカメラなので何とかなったが、初めての遭遇でここまで問題が多発していたら、修理は難しかっただろう。せっかくここまで直したので、何はともあれ実写である。

 紆余曲折あった露出計は、一番多用するであろう1/60秒を基準に調整した。本来シャッタースピードを上げていけば、露出計の針も1絞りずつ変わっていくはずだが、半絞り程度しか変化がない。CdSを変えてしまったので、露出計に通じる筒にぴったり密着せず、内部の乱反射をCdSが拾っているのかもしれない。

 しかし、ネガフィルムを使うことを考えれば、多少の露出のズレはラティチュードの広さでカバーできるはずである。「環境光全体を露出する」と半ば強引に割り切って撮影してみた。

 結果的には、逆光など難しい露出に弱いのはオリジナルと同じで、それほど外さずに撮影できるようだ。最短で80センチまでしか寄れないが、近景ではすばらしい描画力を発揮する。若干青みが強い写りをするが、ハーフでこの解像感なら十分満足できる。

コデラ的-Slow-Life 近景ではすばらしい解像感を見せる
コデラ的-Slow-Life 難しい露出だが、うまくまとまっている

 一方で中距離から遠景にかけては、かなり解像感が落ちる。F8〜11前後で撮影しているので被写界深度はだいぶ深いはずだが、中距離から遠景は何となくぽやんとした写りだ。フォーカスは合っていると思うが、露出不足で解像感が出ないのかもしれない。

コデラ的-Slow-Life 露出不足もあるが、遠景ではぽやんとした写り

パンフォーカスでスナップが面白い

 ゼンマイによる自動巻き上げ機構を持つハーフカメラには、このDial35のほかにリコーのAUTO HALFがある。2倍撮れるハーフという画角とゼンマイ駆動の組み合わせは、最強のスナップカメラとなる。

 AUTO HALFはまさしくスナップ道を極めていて、フォーカス調整もなくパンフォーカスである。だから気に入ったらシャッターを切るだけで、自動的にどんどん撮影できる。いまどきのデジカメなら珍しくも何ともない機能だが、ゼンマイとバネだけでこれをやってのけるのだ。

 一方Dial35はそれよりもちょっと機能が大人びていて、マニュアルフォーカスであるのと、実は露出もマニュアルで設定できる。ファインダ下のつまみを引っ張り出して回すと露出計の針を強制的に動かせる。これでシャッターを押せば、その絞り値で撮影できる。

コデラ的-Slow-Life ギザギザのつまみを引っ張って回すとマニュアル露出に

 オートでもシャッタースピードを遅めにして絞って撮れば、ほとんどパンフォーカスのカメラとして使える。アングルさえ決まれば、いつでもスナップが撮れる手軽さも備えているわけだ。

コデラ的-Slow-Life 巻き上げ不要でバンバン撮れる

 おそらく初心者にはそのユニークなデザインが、上級者にはこの使い勝手の広さが、人気の秘密だろう。こういう愛すべきカメラは、製品サイクルの短いコンパクトデジカメではなかなか現われてこない。もう少し、ゆっくり楽しめるカメラの世界があってもいい。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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