なぜハーバード大学サンデル教授の講義は白熱するのか?(1/2 ページ)

» 2010年11月04日 08時00分 公開
[中村修治,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:

中村修治(なかむら・しゅうじ)

有限会社ペーパーカンパニー、株式会社キナックスホールディングスの代表取締役社長。昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。


 ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の著書『これからの「正義」の話をしよう』は、30万部を越えるベストセラーとなった。さらに、サンデル教授の講義は「ハーバード白熱教室」と名付けられ、こちらも話題となっている。

 その講義の模様が10月17日、NHK教育で「『白熱教室』の衝撃」と題して放映された。なぜ、マイケル・サンデル教授の講義は、白熱するのか……その秘密が解き明かされた。

 米国ではオバマが大統領となり、日本では政権交代が起こる。しかし、その選択は正しいものだったのかという、揺り戻しが起こっている。国家のあり方や、政治への興味は高まっているのに、思想的な中身については、行ったり来たりで空虚になるばかりである。単に歴史を振り返っても、この変化を乗り越える術が分かるわけではない。経済学者や評論家の言質にも信憑性がない。

 こういう時代の行き詰まりの中で「政治哲学」「公共哲学」とは、誠に新鮮である。我々は、どんな姿勢と態度でいるべきなのか。専門的な知識や経験が、これらを解決するのではなく、考えること自体に意義を見つけられる。哲学は、答えが出せない。しかし、世界を変えることができるのは、哲学である。意見に一致はなくても、他人の意見に耳を傾け、自分なりの意見をつむぎだす。その意見の交換こそが、「政治哲学」「公共哲学」の答えであることを身を持って体験することができる。答えではなく、問うことそれ自体のうちに問いの意味のほとんどがある。

 サンデル教授の講義の特徴は、徹底した対話形式にある。サンデル教授は教室の中にいる学生たちの意見を次々と拾い上げ、つなぎ、ほかの意見を誘導し、あるべき思考のプロセスを体験させる。肝心なのは、白熱教室を白熱させるためには、いちばん的を射た学生たちの意見を、効率良く拾い上げる技術なわけである。そのコツについて番組の中でサンデル教授は、こう答えている。これは、いろんなプレゼンや会議の場面で活用できるテクニックである。

ナレーター 「一見無造作に見える学生を指名する選び方ですが、そこにはサンデル教授の綿密な計算があります」

サンデル教授 「講義で議論をしている時に、ずーっと手を挙げている学生が時々います。その学生は往々にしてほかの学生の意見にほとんど耳を傾けていないのです。ですから私は、ただ長い間手を挙げている学生には当てないことにしています。

 また、質問をしてすぐに手を挙げる学生も考えていません。一瞬考えて、しばらくしてから手を挙げる学生は、実のある議論に貢献する意見を言う可能性があります。ですから極めて具体的なアドバイスとしては、真っ先に手を挙げる学生を当ててはいけないということです」

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