カルビーが小売店運営に乗り出す理由それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年10月27日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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カルビーの狙いはどこにある

 アンテナショップに集まる、情報感度が高く、商品カテゴリに関心度が高い層は「口コミの中核」ともなる。mixiやFacebook、Twitter、もしくはブログによる口コミ情報発信が期待できる。店内調理されるジャガイモメニューを通じて、カルビーの「原材料へのこだわり」も訴求されるだろうが、それが話題になれば、ブランドへの好感度が増すだろう。

 地域限定商品が話題になれば、当該地域の販売に寄与するだけでなく、お土産需要も喚起されることになる。また、発売前商品が話題になれば、発売前の期待醸成というCM以上の告知効果も期待できる。そもそも、昨今はCMの注目度も低下していることから、口コミの期待が高まるのは当然だ。また、数多く発売される新商品を1つ1つCMに注力していくより、事前に口コミで話題になった商品に後追いでCM投下量を増やした方が効率的だ。

 もう1つ狙いがあるはずだ。それは、販売チャネル対策である。コンビニやスーパーなど、大手流通グループの店舗ではPB(プライベートブランド)商品が棚の占有率を高めている。自社商品がPB商品に棚を奪われる脅威にさらされている。棚を確保するためには、まずは消費者に購入してもらい、売れ筋から外れないことと、それ以前に、CMの投下によって「盛り上がり感」を出して、チャネルの仕入れ担当者にアピールすることだ。

 スナック菓子では、競合の湖池屋が阿部サダヲが演じる異色のCM「コイケ先生」シリーズで「湖池屋のポテトチップス」を訴求している。それを追って、カルビーも女優・蒼井優、プロレス選手・タイガーマスク、お笑いコンビ・ジャルジャルらをキャラクターとして、ポテトチップスを食べる瞬間の表情をハイスピードカメラ(高速度カメラ)でとらえた「ハイスピード・パリ!」シリーズを放映している。いずれも新商品ではなく、ポテトチップスという基本商品でブランドアピールをしているのは、チャネルへのアピールという側面が高いといえるだろう。

 CMでチャネルへのアピールはできても、前述の通り昨今、消費者のCMへの関心度低下は否めない。そこで、ネットでの口コミ拡大による消費者の指名買いに期待が高まる。

 15という店舗数は、単なるアンテナショップとしてはかなり大規模であるといえるだろう。ともすれば、数を多くすることは通常の販売チャネルでの購入とカニバリ(共食い)を引き起こし、チャネルからの反発を起こしかねない。しかし、口コミの規模拡大を狙うのであれば、消費者の接触ポイントを拡大する必要がある。そのギリギリのラインが15店舗という判断なのではないだろうか。また、「京都」という都市は、修学旅行の若者を中心として主要ターゲット層と効率的に接触できる選択であると言えるだろう。

 15店舗という規模のアンテナショップで、年間1億円の売り上げで運営しようという意図は、カルビーが「ニーズ発掘機能」と「口コミ発信機能」という情報の受発信拠点を、CMなどのマーケティング・コミュニケーション予算に全額アドオンして運営するのではなく、自主独立して機能する「仕組み」として位置付けようという意図も感じられる。

 日経新聞の小さな記事から推測すると、カルビーは急速に変化する消費者のニーズ、販売チャネルの環境、コミュニケーションの効果・効率といった大きな問題に今回の施策でチャレンジしようとしていると思われる。開業日を迎えてこの目で見られる日が待ち遠しい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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