「Twitterは中国に100%自由な言論空間を与えた」――トップツイーター安替氏の視点(7/7 ページ)

» 2010年10月26日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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反日デモが起こった経緯

――政府を批判するような発言もされていますが、安替さんは中国に帰っても大丈夫なのでしょうか? また、安替さんや中国のTwitterユーザーのみなさんは最終的にどういう国体を目指していらっしゃるのでしょうか。

安替 僕がどこでどんな人にどんな話をするかというのは当然ある意味、自己規制の範囲内で行われています。なぜなら、中国でメディアに関わる人間はそういう自己規制をすることがDNAの中に埋め込まれているというレベルにあるんですね。

 中国のインターネットユーザーの様子を眺めてみると、それぞれの考え方が多様化していると思います。その中には共産党支持者もいるし、民主主義の支持者もいる。僕はこういう体制を求めているというものはなくて、そうしたいろんな人の幅広い意見が実際に存在する中国の現状を全部受け入れた上で、その結果どういう体制を作るのかを考えることが大事だと思います。これは冗談ですが、その結果、天皇制がいいということになれば、天皇制を選んでもいいかなと思います。

――中国では政治的な発言をする場合、インターネットの動画配信は利用されているのでしょうか?

安替 非常に残念なことですが、動画はコストがかかるんですね。Twitterだと140字に凝縮したツイートを流すだけで、人の目に触れて、どんどん増える(リツイートされる)ということがあるのですが、動画はそれを撮影してアップするという作業が必要です。そして、コストをかけて作ったにもかかわらず、削除される時は、一瞬で削除されるわけです。Twitterだと140字のツイートが消されたとしても、無駄になるコストは少ないですよね。

 何か事件が起こった時、現場で携帯電話などで撮った動画をYouTubeにアップして、そのリンクをみんなに伝えるという方法はとられています。しかし、YouTubeは中国国内からはアクセスできないサイトなんですね。そこで同じ動画を中国の国内動画サイトにアップするとどうなるかというと、一瞬のうちに消されてしまうわけで、手間やコストなどを考えると効率が良くない。そのため、中国においては、動画による成功例はほとんどありません。

 ただ、中国でもスラップスティック・コメディのようなものを撮って、ネットに流すということは行われています。政治的な内容たっぷりというように表面的に見えなければ、削除されないわけです。

 例えば、羅永浩さんという英語の先生は、英語の授業のために撮った動画をアップしています。しかし、表面的には英語学習ビデオなのですが、よく見ていくと、政治的メッセージが微妙に含まれていて、分かる人には分かって面白いということがあります。そういうことをやっている人はたくさんいます。

 また、ハーバード大学やエール大学が公開講義の動画をネットでアップするということを行っているのですが、これに中国語の字幕を付けて、中国人が見られるようにしています。すると、その中の政治関係の授業を見た中国人の学生たちが「自分たちは何を勉強してきたんだ」と感じるという効果は過去にありました。

――中国の反日デモが起こる経緯について教えてください。政府が仕切っているという説から、全然知らないという説までさまざまあるのですが、どの程度関与しているのでしょうか?

安替 今回の反日デモについては、「起こるぞ」と言われていた時点ですでに僕は日本に来ていたので、どういった背景があるかはまったく分からず、二次情報しか入ってきていません。もし僕が北京にいたら一次情報を絶対につかんでいたのですが、今は日本にいるのでその点ははっきりしません。

 しかし、中国において、デモが起こるということは異常な状態であるとは言えます。デモが起こらないのが常態で、デモが起こるというのは異常な状況なんです。

 今回の反日デモで注目していただきたいのは、デモが起こっているのはトップ都市ではなく、二級都市、三級都市であるということです。民主的といわれるデモは北京や上海や広州といったトップ都市、情報流通が早く、市民という意識が確立しつつある都市で起こっています。

 今回、反日デモが起こっている二級都市や三級都市は、情報流通がうまくいっておらず、人によっては今の日本がどういう状態なのか分かっていない、「日本はいまだに小泉純一郎首相の時代である」と信じている人が多いのではないかと思われる都市なんですね。つまり、市民社会がまだ形成されていないところで起こっているというのが1つのポイントなのではないかと思います。

 そのため、今回のデモはきっと政府の手が入っていると思います。というのは、同時に大都市においては、「無闇に街に出るな」という情報がちゃんと回っていたんですね。つまり、大都市においてはそういう情報をきちんと回せるような余裕があった。しかし、地方都市では政府が手を回して、デモを動かしたという可能性は十分あると思います。

 でも、「今回のデモは完全に中国政府が仕組んだ」という言い方をするのもどうかと思うんですね。なぜなら、もし中国政府がまったく野放しにしていれば、多分毎日、中国のどこかの都市で反日デモが起こっているはずです。そのため、中国政府は手を加えないわけにはいかない。

 中国政府と民主主義との関係には非常に微妙なところがあって、「中国政府が絶対にあおっている」、また「中国政府が絶対におさえている」というだけは語れない部分があるんです。中国国内において、反日感情というのは確実にあるわけです。それは歴史的な観点によるものなのか、それとも現在の関係に対する不満によるものなのかという部分とは関係なく、とにかくそういう感情があるので、「方法さえ見つかれば、それを利用してやろう」と思っている人もたくさんいるわけです。

 例えば、僕は南京生まれの南京育ちで、愛国教育を受けて育ってきた人間です。そのため、インターネットに触れるまで、僕は「世界中の問題は日本人が引き起こしている」と信じていました。僕の過去の経験というのは、今の中国の二級都市、三級都市と言われる街の人たちの状況とそっくりだと思います。

 彼らは日本についての情報を持っておらず、いまだに小泉首相の時代だと思っていたりもする。小泉首相の時代に何が起こったかというのをそのまま受け継いで、日本はそのままやっているんだと思って、自分の生活上の不満などを簡単に向ける相手として日本を選ぶ。そういう状況が今、現実として中国の二級都市や三級都市にはあると思います。

 そのため、本当の情報というのは非常に重要な役割を果たすと思うんですね。だから特に今この時期、日本の方々は国内にばかり目を向けるのではなくて、日本が持っている多くの情報を中国のWebサイトに載せていくという努力をして、中国人の日本に対する視点を変えていく努力をする必要があるのではないでしょうか。

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