「Twitterは中国に100%自由な言論空間を与えた」――トップツイーター安替氏の視点(5/7 ページ)

» 2010年10月26日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

野次馬精神が中国を変える

安替 魯迅はかつて上海租界に住んでいました。彼は租界について批判していましたが、租界の中の言論の自由は存分に活用していました。中国のインターネットではいろいろとアクセスがブロックされているわけですが、VPNの技術を使ってそれを乗り越えて発言したり、情報を得たりすることを、僕は魯迅の例に習って「VPN租界」と呼んでいます。僕たちが100%の自由を利用してTwitterでつぶやいた発言は、国産マイクロブログ「新浪微博」でコピーされて、次から次へと人々に伝わっていきます。

 その結果、インターネットは将来的に中国に民主化をもたらすのか?

 現時点の中国のインターネットユーザーは4億人なので、あと数年もすれば、中国の若者たちはほぼ全員がインターネットユーザーになると思います。将来のインターネットユーザーたちは、多分3つのことを信じるようになると思います。

 1つ目は、発言の自由は米国にあるものではなくて、僕たちが生まれた時から持っている自由であるということ。そして、発言の自由というのは民族主義者(ここでは民主主義者の対義語としての意)にも与えられているということ。

 2つ目は、情報は財産であるということ。今年初め、Googleの中国撤退事件がありましたが、あの時に僕たちは民族主義から中国の側に立つのではなく、Googleの側に立ちました。それはなぜかというと、情報は財産であるという意識があったからです。例えば、僕たちが使っているGmailやGoogle Talkというサービスによって、僕たちの情報が守られているんだという意識があったので、Googleを支援したのです。

 また、自分が語ろうとしたことを削られることなく流す権利、自分が喋りたいことを誰かに勝手に切られたり、くっつけられたり、ごまかされたりすることなく、自分が言いたいことを言いたいだけ発表するという自由もあるということも信じるでしょう。

 3つ目は“参加する民主”というものが非常に重要だということです。Facebook民主やTwitter民主という言い方がありますが、つまりFacebookやTwitterを通じて、自分が正しいと思ったものに1票を投じる(Twitterでリツイートしたり、FacebookでLikeボタンを押したりする)という参加の仕方で、自分の意思を表していくというやり方が今、語られています。

 米国や日本には伝統的な民主の形があったと思いますが、Facebook民主やTwitter民主が伝統的な民主のあり方を変えてきつつあるのではないでしょうか。中国の場合は伝統的な民主はなく突然、参加する民主、つまりFacebookやTwitterで自分の意思や同意を表明するという方向性が現れてきているわけです。

 ただ、インターネットが変えられるのは政治体制ではなく、人の思考方法です。日本の議会民主ではインターネットで人の思考を変えることによって政治を変えられるのですが、中国ではまだそこには至っていません。そのため、インターネットによる民主化が政治的な民主化、また政治的な大きな改革に直接つながるという単純な見方はできないと思います。

 日本には野次馬という言葉がありますが、中国にも「草泥馬(ツァオニーマー)」という言葉があります。これは発音としてはもともと人をののしる言葉だったのですが、それをあるインターネットユーザーが漢字を変えて、アルパカの画像を添えて1つのアイコンを作りました。それ以降、インターネットでは草泥馬というのが、インターネット民主のある意味でのアイコンとなりました。

日本の野次馬(左)と中国の草泥馬(右)

 インターネット民主というのは“野次馬精神”です。野次馬精神とは、直接サインしたり、デモをするわけではなく、デモに注目して、自分たちの注目がそこに集まっているんだということを表現することによって、それをパワーに変えていくということです。つまり、デモの中で歩くことではなく、デモに関心を持つという形で、自分の意見を表明するということ。そういう形が今の中国のインターネット民主への参与の仕方になっています。

 米国の雑誌「The Newyorker」のコラムニストにマルコム・グラッドウェルという方がいらっしゃいます。その方が「The Newyorker」のWebサイトで、「Twitterは非民主国家に民主をもたらすか?(参照リンク)」という疑問を投げかけました。

 それについて僕も「NYTimes.com」でコメントしたのですが(参照リンク)、僕も「Twitterが非民主国家を100%変えることはできないだろう」というマルコムさんの視点に同意しています。

 ただ、そこで僕が最後に付け加えたのは、Twitterは中国に初めて100%自由な発言空間をもたらし、自分の意見を発表し、今まで耳にすることができなかった情報を手にできるようにしたと。つまり、Twitter自体は革命ではないかもしれないが、Twitterは革命的な効果をもたらしたと書きました。草泥馬は僕たちの代表議員ではありませんが、僕ら市民が行動する上での希望のアイコンとなっているのです。

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