「Twitterは中国に100%自由な言論空間を与えた」――トップツイーター安替氏の視点(4/7 ページ)

» 2010年10月26日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

Twitterが変えた中国

安替 100%自由な発言空間を手に入れた中国人たちは、そこでいったい何をしたのか。

 2009年7月5日にウイグル自治区のウルムチで騒乱が発生しました。中国では国内ニュースを最も早く伝えるのは新華社の英語サイトです。しかし、そこが情報を流す30分前、北京に住む米国華僑のカイザークオ(@kaiserkuo)さんが「ウイグルで騒乱発生」という情報を流しました。

 7月16日には、郭宝峰(@amoiist)さんというTwitterユーザーが、「i have been arrested by Mawei police,SOS(警官に捕まった、助けて)」というツイートを携帯を使って流しました※。そのツイートが爆発的に広まって、それを読んだニューヨークタイムズなどの海外メディアがその事件について報じました。

※汚職を訴える動画をネットで流したために逮捕された。

 その結果、全世界のTwitterユーザーたちによって、「郭宝峰、お母さんがご飯に帰ってこいって言っているよ」と書いて送ろうという運動が始まって、彼が収監されている獄にハガキが集中して、当局に圧力がかかりました。その結果、郭宝峰さんは2週間後に釈放され、これはTwitterを使って政治犯を救った最初の事件となりました。

 2010年2月22日には、芸術家の艾未未が6人の芸術家を率いて、中国のメインストリートである長安街でデモ行進しました。これは(天安門事件があった1989年以来)20年来初めて、長安街にデモが発生したという事件になりました。この時、艾未未さんは自分の携帯電話で写真を撮り、Twitterにすぐ流し、そのデモが起こっていることを伝えました。

 Twitterは環境問題についての活動にも利用されました。2009年11月23日に中国の広州で起こった(ゴミ発電施設建設反対の)デモでは呼びかけがTwitterでなされ、Twitterで中継もされました。その結果、このデモは中国国内メディアでもきちんと報道されました。

 また、人権弁護士の許志永(@xuzhiyong)さんの運営するNGO団体が当局によって脱税の疑いをかけられ、彼が拘束されたことがありました。日本円にして1700万円の脱税の罪をかけられて拘束されたのですが、その情報をTwitterで知ったユーザーたちがお金を少しずつ寄付したことによって、2週間後に彼は釈放されました。僕は500元(約8000円)ほど寄付したのですが、そういう風に1人1人が出せる程度のお金を出して参加したという事件でした。

 ダライ・ラマもTwitterで活動しています。ダライ・ラマは中国語でツイートするTwitterアカウント(@DalaiLamaCN)を持っていて、中国人ユーザーと交流する場として日ごろから活用しています。中国人ユーザーたちはダライ・ラマに対していろんな考え方を持っており、そこには反対意見を持っている人もいるわけです。中国国内では当然ダライ・ラマと直接対話することはできないのですが、Twitterでダライ・ラマが直接中国人ユーザーの問いに答えるという形で交流するということもありました。

 Twitterはパブリックディプロマシー(公共外交)においても活用されています。例えば、中国にある米国大使館はTwitterだけでなく、中国国内の人たちが普通に見られるブログを作って、中国人たちに自分たちが何を考えているか、何をやろうとしているかを伝えています。そうすることで、彼らはほかのメディアに頼らずに自分たちが言いたいことを直接インターネットユーザーに届けられるわけです。

 僕は、日本の外交関係者に直接Twitterで中国語で情報を発信していただきたいと思っています。中国メディアに頼って情報発信した場合、情報を変えられる恐れがあるわけですね。しかし、Twitterで日本の外交関係者が中国語で直接つぶやけば、それに手を加えることは不可能なわけです。

 中国の米国大使館では毎月1回、中国の有名ブロガーや有名オピニオンリーダーたちを呼んで、会合を開いています。下写真はその時の記念写真なのですが、手前の真ん中にいる2人が現在の中国大使ご夫婦です。そして、後ろから2人目が僕です。僕の左側にいるのが、饒謹(ラオ・ジン)という有名なインターネットユーザーです。彼は「アンチCNN」というCNNの報道などをけなすようなWebサイトを運営しているのですが、彼もこの米国大使との交歓会に参加しています。また、大使のすぐ後ろにいる孔慶東(コウ・ケイトウ)さんは北朝鮮政府の支援者ですが、そういう方たちもゲストとして呼ばれている。こういうのを見ると、米国はパブリック・ディプロマシーにおいて、非常に賢い方法をとっていると思いますね。

米国大使館のパブリックディプロマシー

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