「○○君」と呼んでいた後輩が上司に……どうすればいいのか吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年10月22日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

「かつての関係」がない人は“さん”と呼ぶ

 前述の新聞の記事と私の学生時代の経験は、状況が違う。だが、重なる部分はある。それは、いったん作られた力関係(心理的な意味において)は、その人たちの意識に強い影響を与えるということ。記事でいえば、長い間後輩だった社員は、先輩からするとやはり「格下」なのである。その後輩が上司になることは、素直には受け入れることができないものなのだ。

 私の例でいえば、私と同じ高校だった1年の男性は互いに呼び捨てにし合える仲なのである。だが、新たに加わった2年の友人と、「年下の後輩」との間には「いったん作られた力関係」がない。だから、友人は後輩を呼び捨てにできない。吉田とは同じ学年であり、「いったん作られた力関係」がある。ふだんならば呼び捨てにできるのだが、そこに「年下の後輩」がいるとそれが言えない。

 こういうことは、今も言えることである。2年ほど前、名古屋にあるメーカーの関連会社を取材した。このとき、30代前半と思われる課長補佐が、役職がない数歳年上の社員に指示をしていた。そのやりとりは、ぎこちない。課長補佐が「年上の部下」に気を使い、言いたいことが言えないように見えた。取材で訪れた私が冷や冷やするくらいなのだ。

 このあたりについて岩田氏は自身の例も書いている。岩田氏は大学を卒業した後、数年間、大手メーカーに勤務し、その後、大学院に戻り、研究者になった。その後、かつて勤務した企業の先輩達と会うと、ためらわずに岩田氏のことを“くん”で呼ぶという。ところが、その「かつての関係」がない人は“先生”または“さん”と呼ぶのだそうだ。

ひとたび形成された身分序列は消滅しない

 岩田氏はこのような経験から、次のようなことを導き出している。「わが国においては、ひとたび形成された身分序列が、なかなか消滅しないという事実を、示している」(P133より抜粋)

 このくだりとは違う文脈で書かれてはいるが、私が大切と思うことを抜粋しておく。岩田氏はこうも書いている。「ただ1度の敗北であっても、それが劣った“能力”の証明とみなされるときには、競争者にとってしばしば決定的な意味をもってくる。入学試験の失敗が受験生に与える深刻なショックは、多分にこのような性格をもつものと思われる」(153ページ)

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