ベルリンの壁崩壊から20年……その後の姿に迫る松田雅央の時事日想(3/4 ページ)

» 2010年10月19日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

心の壁

モダンに生まれ変わったベルリン(ソニーセンター)

 物理的な壁はなくなったが、目に見えない心の壁はいまでも残っている。

 旧西ドイツ市民は、旧東ドイツ市民を「オッシー」(東の奴ら)という蔑称で呼ぶ。経済的に崩壊した旧東ドイツ市民を受け入れてやり、再建のため金を出してやっているのに、どうもその好意を感じていない。「2級市民」として見下した感覚がこの言葉には含まれる。

 一方、旧東ドイツ市民は旧西ドイツ市民を「ヴェッシー」(西の奴ら)と陰で呼ぶ。戦後、運よく恵まれた生活を享受してきた旧西ドイツは、当然、旧東ドイツの再建を援助しなければならない。それなのに恩着せがましく金を出し、ことあるごとに旧東の悪口ばかり言う。旧東ドイツ時代の価値観を完全に否定され、独り立ちできない“問題児”として扱われることに辟易している。

 幸い、心の壁は年々薄くなってきているが、本当の意味で心の壁がなくなるには2〜3世代の時間が要るだろうし、その前提として旧東ドイツの経済的な再建が必要だ。しかしながら、これが難しい。停滞の40年があまりに長すぎたのだ。

再建は可能か?

 旧東ドイツ時代、市民の憧れの的だったのが国民車「トラバント」。 結婚時に予約すると10年後にやっと手に入る高嶺の花であったが、西側の基準からするとその品質はがくぜんとするものだった。一応、完成後の品質検査はあるが、ボンネットの閉まりが悪いと足を使い力ずくでボンネットを曲げ、閉まるようになればでき上がり。夏、駐車場でタイヤにダンボールを掛けている人がいた。なぜかと言えば、ゴムの品質が悪く「紫外線が当たるとタイヤが傷むから」。いずれも冗談のような本当の話だ。

 再統一後、トラバントは西側の排気ガス気準をクリアできないが、基準を厳密に適応すると旧東ドイツ市民が困るため特例措置がとられた。さすがにトラバントを見かけることはなくなったが、今は逆にノスタルジーをかき立てるクラシックカーとしての価値が高まっているという。ドレスデンではトラバントを連ねて走る「トラビ・サファリ」(トラビ=トラバントの愛称)が人気で、直列2気筒2ストローク空冷エンジンが「パンパンパンパン……」という音を立てながら街を快走している。

懐かしのトラバントで走るのが観光客に人気

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