私たちの行動は何に支配されるのか?――『影響力の武器』(1/2 ページ)

» 2010年10月12日 08時00分 公開
[泉本行志,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:泉本行志(いずもと・たかし)

サンダーバード国際経営大学院卒業(MBA取得)。外資系大手経営コンサルティングファーム、外資系大手IT企業、ベンチャー企業での事業立ち上げを経て、株式会社アウトブレイン社を創業。現在はロジックと感情を融合した思考法を活用し、事業アイデアの立案・戦略策定・業務改善コンサルティング、問題解決手法の教育プログラムを開発・提供している。ブログ「Knowledge Bridge (知見を繋ぐ・感情を伝える〜)


 「何か決定を下すとき、私たちは利用可能な関連情報をすべて利用するわけではなく、全体を代表するほんの一部の情報だけを使う。説得のプロはそれを利用し、相手に影響力を与える引き金を忍ばせ、成功率を高めている」

 ロバート・B・チャルディーニ著『影響力の武器』では、セールス、広告、募金活動などの事例を挙げ、相手から承諾を引き出す戦術を紹介。その戦術を6つのカテゴリーに分類し、人間の行動心理学の原則をもとに解説している。

 その6つのカテゴリーを要約してみよう。

返報性 (reciprocation)

 親切や贈り物、招待などを受けると、そうした恩恵を与えてくれた人に対して将来お返しをせずにはいられなくなる気持ちを利用するもの。

 例えば、無料試供品を配布する販売推進員は、表向きは製品の存在を知ってもらいたいという振りをしているが、実は、贈り物に付きものの報恩の義務を利用して買わせようとしている。

 これをさらに進めたテクニックとして、「拒否したら譲歩」法という、別名「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」がある。これは、まず確実に拒否するような大きな要求を出し、それを拒否した後、それよりも小さなもともと受け入れてほしいと思っていた本当の要望を出すというもの。要は、最初の要望が拒否されてその要望を引き下げることが譲歩とみられるため、相手がその譲歩に返報しなければならないと感じる圧力に依存しようというやり方である。

一貫性 (consistency)

 自分がすでにしたことと一貫していたい(そして一貫していると見てもらいたい)という気持ちを利用するもの。

 人はひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動を取るように、個人的にも対人的にも心理的圧力がかかる。

 これを利用した販売戦略として、クリスマスプレゼントの例がある。

 ある玩具メーカーはクリスマスの前から、ある特別なおもちゃのコマーシャルをどんどん流し始めた結果、当然子どもたちはそれが欲しくなる。そこで両親にクリスマスプレゼントとして買ってもらう約束を取り付ける。

 しかし、玩具メーカーはクリスマス前にはそのおもちゃを少ししか卸さない。そして大半の親はそのおもちゃが売り切れてしまったことを知り、ほかの類似したおもちゃを代わりにクリスマスプレゼントとして買わざるを得ない。もちろんメーカーは代替品を十分に卸しておく。

 そしてクリスマスが終わると玩具メーカーは再度そのおもちゃのCMをどんどん流す。子どもたちは前以上にそのおもちゃが欲しくなり「買ってくれるって約束したじゃないか」と親に訴え、たいていの大人たちは自分の言葉を裏切りたくないから、その玩具を買い与えてしまう。結果、玩具メーカーは、おもちゃを1つ余計に売ることに成功する。

社会的証明 (social proof)

 自分にとって何が適切な行動であるかを決定する際に、人は他者の行動を手掛かりにする傾向があり、それを利用するもの。特にその他者が自分と似ていると思う場合や状況が不確かで自分に確信がもてない時、この傾向が強くなります。

 例えば、お笑い番組の「笑い声」の挿入もこの心理を利用して笑いを起こさせようとするものであるし、「自然なインタビュー」を装って撮って一連のやらせCMを作るというのも、この力を利用しようというものだ。

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