古書店主が語る、ネット時代の古本ビジネス(5/6 ページ)

» 2010年10月06日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

通信販売と店頭販売の両方を行うメリット

澄田 よみた屋では通信販売と店頭販売の両方をやっているわけですが、両方やることのメリットについて少しお話しします。

 両方やっていると、お客さんはネットで見た商品を、お店に行って実際に確認できます。価格が高いものに関して、このことはとても強力です。

 また、価格による売り方のバリエーションを付けられます。よみた屋では通販は主に日本の古本屋とAmazon.co.jpを使っています。ほとんどの商品は店に置いてあるので、店頭商品と通販商品は重なり合っています。しかし、販売単価を計算すると、日本の古本屋では平均5000円〜7000円になります。Amazon.co.jpでは2000〜3000円。店頭では50円の文庫本から数万円の本まで売れますが、平均単価は500〜700円です。

 日本の古本屋のように、受注や発送、代金の回収に手間がかかるような売り場では、安い品物を扱っていたのでは商売になりません。なるべく高めのものを出すようにして、単価を上げるようにしてきたわけです。一方、店頭では30秒もあれば取引は終了するので、50円や100円の商品を取り扱えるわけです。

 そのようにそれぞれの売り場の特性に応じた品揃えをした結果、下は50円から上は数十万円くらいまでの商品まで満遍なく扱える本屋になりました。店頭販売だけやっていたのでは、とても売れなかったような品物が扱えるようになったのは良かったと思います。

 今は数万円の本が店頭で売れることも珍しくありませんが、多くのお客さんはいきなり店頭でその本を発見するのではなくて、日本の古本屋などでうちの店にあるということを確認して、「現物を見てから決断しよう」ということでお店に来てくださるという風になっています。

 バーチャルではなく、実際の土地に存在するだけで、お客さんはある程度安心してくれるので、特に店主がいい人でなくても、実際にあるというだけで売るという意味では信用性が高まります。通信販売中心の店であっても、一応店舗があった方がお客さんは安心して本を買ってくれるのではないかと思います。また、買取に関しては、店舗があるととても有利になります。

 よみた屋では通販から売れるようになっているのですが、始めから積極的だったわけではありません。私はコンピュータ好きだったので、1992年に開業したころから電脳古書店という名前を標榜していました。しかし、通販をするというよりは、在庫管理や情報発信をしながら店で本を売っていくつもりでした。日本の古本屋が始まった時も、「一応参加した」というくらいでした。

 ところがある時、有名な新古書店チェーンの大きな直営店がよみた屋のすぐそばにできたのです。すると、店の売り上げが4割くらい落ちました。普通の読み物のような一般書が全然売れなくなって、「このままではとても採算がとれない」ということで日本の古本屋への出品を強化して、Amazon.co.jpでの販売も始めました。Amazon.co.jpは価格調査のためによく見てはいたので、だいたい見当は付いていましたが、思っていた通りのパターンで販売できていると思っています。

 さらにネットでは、売るだけではなくて、買取もできますね。ネットで宣伝して、店に持ってきてもらう。これはネット専業だとできないのですが、お店があるとできるのでとてもいいです。お客さんの家に出張して買い取るということもあります。これはたいてい、1回1回の規模が大きいです。半面、置き場所であるとか、仕入れたものをさばいたりする場所であるとかが必要になります。失敗も多いですが。

 ネットのみでの買い取り、つまり宅配便を利用して送ってもらう買取もありますが、これは法律がとてもうるさいんです。現状で通信買取をしている業者はほとんどの場合、違法状態になっていると思います。

 しかし、こうして通信販売と店頭販売の両方をやることのメリットは、日本の古本屋やAmazon.co.jpに参加しているだけではなかなか得られません。自分のWebサイトを持っていて、どんな本屋なのかをアピールすることが必要なのではないかと思います。

 古本屋に本を売ってくれる人は、本でお金を買ってくれるわけです。私たちはお金を払って本を買うのですが、お客さんから見ると、本でお金を買うことになる。そして本当は、お金だけではなくて、本をまた生かすという私たちの活動に対して本を支払ってくれるわけです。「信用を本で買ってくれる」と言ってもいいです。だから、本当に買い取るものは、本そのものよりも本に込められた思いなんですね。

 最近流行しているドラッカーが著書で「企業の目的は顧客の創造だ」と言いましたが、つまり欲しいと思っている人に品物を与えるのではなくて、欲しいと思ってもらうこと自体が企業の存在価値だということです。古本業界全体で考えると、本を売ることよりも、本を売ってもらうこと、買取をすることの方が顧客の創造をすることになると思います。

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