古書店主が語る、ネット時代の古本ビジネス(4/6 ページ)

» 2010年10月06日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

どうやって店頭価格を付けるのか

澄田 さまざまな相場形成の要素がある中で、今後の店頭価格を付けるに当たっては何を参考にすればいいのか。まず、売れる可能性のある価格と、適正な価格は確実に違う概念だということを理解しないといけません。

 先日、我がよみた屋の店員が、洋書の音楽辞典に1万円ほどの価格を付けていたことがありました。よくあるような洋書の音楽辞典で、「見たところせいぜい2000円くらいのものだろう」とその店員に言うと、「Amazon.co.jpでそのくらいの価格が付いている。これが最低価格なんだ」と言うんですね。

Amazon.co.jp

 そこで洋書なので、米国のWebサイトで同じ品物を見てみると1セントで売られている。確かにAmazon.co.jpで最安値なら、売れるかもしれません。海外のWebサイトまで見る人は少数かと思います。

 しかし、1セントのものを1万円で売ったのでは、店の信用に関わるでしょう。売る前でも、店頭でその本を見た人は確実に変に思うでしょう。「何でこんなに高いんだ?」と聞かれた時に、その本の価値を説明できなければ本屋はダメです。プロ同士の市場の相場を持ち出すならともかく、実際の取引が行われたわけでもない誰が付けたか分からない値段は参考になりません。

 しかし、オークションなどでは実際に買っている人がいるので、まったく無視することもできません。普通、店頭に置いている本は、たいてい見た目通りの値段が付いています。「この著者だからこうだ」とか、「この出版社のこのくらいの本はこのくらいの発行部数だから価格はこれこれ」という感じで予想が付きます。発禁になったとか、改訂版が出たから安いとか、何か理由があるためにその価格から外れるものもありますが、そういうものを覚えるというのが、すなわち“相場を覚える”ということです。

 店頭の価格の相場観はそういう風に形成されるわけですが、ネットの価格はまったく安定していないので、そこに齟齬(そご)が生じます。店頭価格は、今言ったように見た目やシリーズなどに基づいた相場観で、その店の価格体系にのっとって付けられるわけです。いわば自分の値段です。

 ネット価格は他業者との直接対決になるので、変化がとても激しい。品物が見えないので、状態による値段の違いが売れ行きに反映しにくいという面もあります。ネット価格は競争価格ということになります。店頭の値段はそのものの価値です。オークションサイトの価格はその場限りの価格であって、古本屋の価格はある程度の時間の幅の中で責任を持つ必要があります。

 ネットの価格は、そのもの自体にしか適用されません。店頭での値段というのはさまざまな本の横のつながりの中で形成されているわけです。実際にはネットの価格も時間的推移の中で変化していくわけですから、古本屋は先を読むことが大切です。

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