第40鉄 夏の青春18きっぷ旅(4)日本一のモグラ駅をズルい方法で訪ねた杉山淳一の+R Style(6/7 ページ)

» 2010年10月05日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 地底のホームは期待通りヒンヤリとしていた。気温が低くて湿気があるから、トンネルの奥は霧が立ちこめている。トイレや冷気を避けるための待合室があるから長い待ち時間も安心だ。ホームの形は映画の場面とはちょっと違う。トンネルの壁沿いのホームの隣に、新ホームが造られている。ここはもともと線路が2本並んでいて、奥の線路は通過列車用。特急列車が各駅停車を追い越せる構造だった。昔は特急「とき」や「白山」が頻繁に通った路線だが、本数の少ない現在、この駅での追い越しはしないということらしい。

土合駅下りホーム。2本あった線路が1本撤去され、新ホームができている。映画の場面とは違う姿になった

 ホームには10人ほどのお客さんが降りていた。列車の発車時刻が迫る。微かに「コー」という音が始まり、空気が動き出す。トンネルの中を列車が走ると、空気がトコロテンのように出口へ追い出されて風が吹く。立ちこめた霧が動き出し、どんどん音が大きくなり、風も強くなる。トンネルの遠い闇からヘッドライトが見えて、列車が姿を現し、霧をかき散らして停車した。意外にも20人ほど降りた。下り列車で見物に来る人も多いようだ。いや、素直に訪れたらこうなるのだけど。

このホームに停車する列車は、1日5本しかない

駅とスキー場が隣接する越後中里駅

 2両編成の電車は混んでいて座る場所もない。次の土樽で降りてもいいけれど、上り列車との待ち時間が空きすぎるから次の越後中里まで乗ってみた。ここは駅とスキー場が隣接する珍しい構造になっている。街側に駅舎があり、ふだんはこちらが使われている。しかし反対側の斜面側にも小さな駅ビルがあって壁面に「スキーセンター」と書いてあった。駅前から何本もリフトが通じ、線路に向かってスキーヤーが降りてくる様式だ。ホームの先端まで歩くと、旧型客車がたくさん停まっている。スキーヤーのための無料休憩所になっているようだ。

新潟県に足を伸ばし、越後中里で降りた。駅舎の向こうにスキーリフトが見える
跨線橋からの眺め。正面の山は湯沢スキー場?

 跨線橋から見渡せば、遠くの山が禿げている。ガーラ湯沢スキー場だ。開発されなかった山を見れば、濃い緑の中に赤い樹木がある。ここは新潟県、日本海側だ。終わりの見えない酷暑だけど、こちらはもう秋の気配が近づいているようだ。ホームにたたずめば、静かな山間の駅……というわけでもなかった。シュー、シューと遠くから音が響いてくる。街の向こうの関越自動車道からだろうか。「そういえば上越新幹線はどこだろう」と携帯電話に地図を表示させると、長いトンネルの中だった。新幹線からでは、この辺りの景色は見られない。

 水上からここまで、下り列車は延長13.5kmの新清水トンネルを経由した。上り電車は旧線を走る。越後中里を出ると、隣の土樽までの間にループ線がある。急勾配を避けるために線路を周回させている。もっとも、ほとんどトンネルの中なので実感はない。ループ線はもうひとつ、土合駅と湯桧曽駅の間にもあって、こちらは車窓右手に湯桧曽駅を見下ろせるから高低差が分かる。当たり前だけど、車窓はトンネルの少ない上り線の方が楽しい。

帰路の上り列車の窓から。湯桧曽駅。山腹にループ線が見える

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