第40鉄 夏の青春18きっぷ旅(4)日本一のモグラ駅をズルい方法で訪ねた杉山淳一の+R Style(4/7 ページ)

» 2010年10月05日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 スキー場としても知られる天神平は、確かに冷たい風が吹いていた。ただし風が止むと太陽が照りつける。暑い。ここの方が地上より太陽に近いせいだろうか(笑)。ロープウェイの土合口まで降りて、なにか冷たいものをと食堂に行くと、ショウガ味のかき氷を見つけた。調理主任の考案で、ガムシロップに生のショウガをすり下ろし、味を調えたという。面白そうなので食べてみた。ひとくち目はほんのり甘くて、だんだんショウガの香りが強くなる。最後に下に残った汁を飲み干したら、漢方薬かと思うほど刺激的。元気の出る味だった。

上りと同じ傾斜なのに下りはけっこう怖い
ショウガ入りのかき氷。ピリッと香るさっぱり味

徒歩で土合駅へ。上りホームは地上にある

 ロープウェイ土合口駅から下り坂を歩く。時刻表巻末の記述によるとJR土合駅までは徒歩15分。木陰の多い道で涼しい。途中、バスに追い越された。あれに乗っても良かったな、と思ったけれど、歩けばそれなりに発見があるものだ。道路脇に彫刻が並ぶ広場があり、休憩して眺めると、息子を遭難で失った芸術家が立てたという「山の鎮の像」だった。そのそばには大きな慰霊碑。僧侶であり小説家であった今東光が贈った「寂静」の文字と、その由来が書かれていた。

土合駅へ歩いて降りると慰霊碑を見つけた

 『クライマーズ・ハイ』で堤真一さんを乗せたクルマが通ったトンネルがあった。徒歩で通り抜けると橋で、見下ろせばなんと滝である。この付近は天然記念物「ユビソヤナギ」の群生地という看板もあった。とても珍しい絶滅危惧種で、採取すると罰金とのこと。でもどれがその木か分からない。その先に道路の上をまたぐ小屋のような不思議な通路があって、なんだろうと思いつつ歩き続けると土合駅前の広場に出た。クルマが数台停まっていたけれど、駅の利用客ではなく、土合駅を見物に来た人らしい。列車の来ない時間帯に出てきた人が車で去っていく。ここまで、写真を撮りながらのんびり歩いて25分ほどかかった。

落石覆いの隙間から土合駅が見えた(左)。橋から見えた滝。この付近が「ユビソヤナギ」の群生地(右)
国道を跨ぐナゾの渡り廊下。実はこれも土合駅の一部(左)。外から見た土合駅。幼稚園みたいなかわいい三角屋根

 土合駅は三角屋根のかわいい姿。出入り口に「日本一のモグラ駅」と書いてある。いまは無人駅だが、かつては駅員さんがいる駅だった。下りホームはトンネルの奥底だから、下り列車の改札は発車10分前に打ち切られた。それは時刻表にも明記されている。私はこどもの頃、時刻表を眺めていて不思議に思っていた。後に鉄道趣味の本で土合駅が紹介されており興味を持った。最初に訪ねた時は高校生で、発売されたばかりの青春18きっぷを使ったのを覚えている。当時は「青春18のびのびきっぷ」という名前だった。あのときは下りホームから階段を上がってきた。若かったなあ……。

 自動販売機だけが活躍する無人駅。しばらく待合室で休憩する。映画の効果もあるのか、ときどきクルマで見物に来るグループがいた。無人駅だから見学は無料だ。トイレがあって、飲み物も買えてベンチがある。ドライブの休憩にピッタリの場所だ。でも、電車で来てほしいなあ、と思う。自分がバスと徒歩できたことは棚に上げている。

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