GDPの成長で豊かさを実感できるようになりましたか?ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)

» 2010年09月27日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]
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失われた10年で伸びたもの

 もちろん、この時期に伸びたものもあります。

 1つは医療、介護産業です。しかし高齢者が増えて病人が増え、家庭で介護されていた人がヘルパーさんに介護されても、それによって「経済的に豊かになった」と感じるのは困難です。介護職の給与水準は低く、医療現場も尋常ではない過重労働を強いられており、新産業の勃興で豊かになったと感じられる人は多くありません。

 もう1つ大きく伸びたのは情報産業や通信業です。企業だけでなく、消費者も“ケータイ”や“ネット”により圧倒的な利便性を手に入れました。これについては「豊かになった実感」を持てる人も多いでしょう。

 しかし一方で、IT化により旅行代理店や金融業、本屋などは、“中抜き”され始めています。雑誌や新聞などのメディア産業もネットに広告と購読者の双方を奪われつつあります。勃興する産業がある一方、IT化のために衰退する産業もまた大きいのです。これも全体的な“豊かさ”の実感をそいでしまう要因でしょう。

 また、IT化の時代に新たな雇用機会として出現したSE、プログラマーという仕事は3Kと言われ、モバイル機器やブラックベリーが24時間働く人を追いかけ、「世界の労働者と戦え」と言われ始めたビジネス社会では精神を病む人も急増しています。

 そんな時代に対応するため、親は子どもが小さなころから英語を習わせ、お受験をさせ、そして、自らは“自分をグーグル化”して荒波を乗り越えようと必死になっています。ここでもやはり高度成長期のような“単純な豊かさの増進”はとても感じにくくなっているのです。

豊かさをどう表せばいいのか

 これはつまり、日本においてGDPが目標指標としての役割をすでに終えているということではないでしょうか。もともとGDPは経済規模の指標であって、豊かさの指標ではありません。経済的に貧しい国にとって、たまたま「経済規模の拡大=豊かさ」であっただけなのです。

 GDPのグラフが右肩上がりなのに、私たちの「豊かさ実感」がむしろ下がっているとしたら、「今の私たちの豊かさを表現する本当の指標」のグラフは右下がりになっているはずです。

 問題は、私たちはそれが何のグラフなのか理解できていない、ということです。それはつまり、豊かな生活のために今、何を変えればいいのか、何をすればいいのか分かっていないということでもあります。

 その“隠れたグラフの意味(式)”を突き詰めなければ、私たちはまたこれからもずっと「豊かさの実感とは乖離してしまった経済成長」を追い求め、リーマンショックで今度は本当に下がってしまったGDPを回復させるため、心と体をすり減らして頑張っていくことになってしまうでしょう。

著者プロフィール:ちきりん

兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN

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