GDPの成長で豊かさを実感できるようになりましたか?ちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2010年09月27日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年12月7日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 次の図は日本の実質GDP※の時系列グラフです。戦後すぐからリーマンショック前の2007年までのデータをもとにしています。

※実質GDPは、名目GDPから物価の上昇・下落の影響を取り除いたもの。

 一番左の無色の部分が戦後経済の混乱期。次のグレーが高度成長時代。その次の無色部分が1974年のオイルショックを機に経済成長の質が変わった時代。そして薄緑の部分が1986年からのバブル経済。最後の薄ピンク、1993年あたりからが“失われた10年”を含む停滞期です。

 このグラフを見ていると、違和感を覚えます。生活者としてはリーマンショックまでの直近15年、こんなに実質GDPが伸びていたという実感が持てないからです。

 1つはこのグラフが“実質”GDPだからでしょう。人の感覚は名目GDPに近くなるので、デフレが続いている昨今において“実質的な経済成長”を体感するのは難しいことです。

 しかし、それにしても「デフレでモノがどんどん安くなり、実質的には過去15年もこれだけ経済成長したのですよ」と言われても、にわかには信じがたい気もします。なぜこんなに実質GDPの成長と実感が異なっているのでしょうか?

私たちはどのように豊かさを感じたのか

 まずは左から2番目のグレーの部分、高度成長時代を見てみましょう。この時代の経済成長とは、「炊飯器と冷蔵庫と洗濯機とテレビが我が家に来た」ということでした。人々は食べるに困らなくなり、家には毎年新しい家具や家電が増える。それは“とても分かりやすい経済成長”だったのです。

 その次の白い部分、1974年のオイルショックを克服して成長を続けた日本。ここでも、クーラーに電子レンジと、“モノの豊かさ”は引き続き向上します。

 加えてこの時期は機械系、電子系の日本製品が世界中で売れ始めた時期です。それまでの日本は“安い労働力”を売る国でした。しかしこの時期、日本製品は“高い技術力”によって売れるようになり、日本人は必ずしも働く時間で勝負をする必要がなくなります。

 それに従って週休二日制が導入され、給与や賞与も上がります。増えた余暇と資金は、“初めての家族旅行”に使われました。これも分かりやすいですよね。モノに加え、ソフト面で生活がとても豊かになる。そういう実感が持てる時期だったのです。

 次が1986年から5年ほど続いたバブルです。この時期に豊かさを実感させてくれたのはプラザ合意によって引き起こされた“円高”です。これにより、ハワイや香港の免税店からパリのルイ・ヴィトン本店までが日本人で埋め尽くされます。20歳の若者がバックパッカーとして世界旅行を楽しむようになり、企業家は世界のオークションで名画を落札し、ニューヨークの著名ビルを次々と買い取ります。

 日本の通貨が“世界で通用する”ようになった結果、日本人はこの時期に「世界の富を手に入れる財力」を手にしたのです。これも分かりやすい“豊かさの向上”でした。

 ただしバブル期には不動産価格が急騰し、一般の国民は巨額の借金なくしては家が買えなくなりました。これは、GDPの伸びと豊かさ実感の乖離(かいり)が始まった最初の例と言えるかもしれません。

 最後にバブル崩壊からリーマンショックまでの15年ほど。この時期も実質GDPは伸びています。実はこの期間、多くの商品が日本製から「Made in China」に置き換わり、物価が下がりました。同じ機能のものが何割も安く買えるようになり、それにより私たちは“豊かになった”と感じるはず、なのですが……実際にはそう感じた人は多くありません。

 なぜなら、中国からの輸入品に負けて立ちゆかなくなった産業や会社が急増したからです。世界に誇る日本の家電の大半がアジアで作られるようになり、日本では多くの人が職場を失いました。さらに企業は日本における新入社員を正社員として雇わなくなりました。

 バブル崩壊で税収も急減したため、消費税の引き上げ、医療費の引き上げ、年金受給開始時期の延期、生活保護の抑制と、次々と国民に負担増と不安増を迫る施策が導入されました。公共事業も大幅に削減され、地方経済は息の根を止められます。これでは豊かさを体感するのは不可能です。

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