中国家電最大手ハイアールは日本を席巻するのか?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年09月22日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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イグアナのように心が縮んだ消費者の心をとらえるのは……

ハイアールHP

 日本の家電市場の中で、中国メーカーの製品が繁茂する余地はどこにあったのだろうか。1つはやはり、環境の変化だろう。前記記事の翌日、9月15日の日本経済新聞消費面のコラム「消費のなぜ」。「洗濯機『縦型』牽引 ドラム式との機能差縮小 値頃感増す」という見出しで掲載されている記事を見てみよう。

 ここ数年、洗濯槽が横に回る「ドラム式」が人気だったが、省水量型など機能向上と、何より価格の安さが人気で「縦型」が買われているという。購入層は、単身・少人数世帯やマンションなどの狭小住居世帯。さらに、ドラム式に装備されている「完全乾燥機能」をオーバースペックと感じている層などであるという。

 マクロ環境で考えれば、日本の人口は2005年から減小に転じている。2015年までは世帯数は増加すると予測されているが、そのほとんどが単身・少人数世帯である。さらに長引く不景気は財布のひもを引き締め、買い換えるたびにグレードアップするという、「すごろく型の消費」などはもはや過去の購買行動でしかない。

 日本向けのハイアールの家電は、日本向けのデザインや機能を搭載し、製品開発されるという。しかし、オーバースペックな開発はせず、「必要十分」というレベルで価格を抑え、コストパフォーマンスの良さで勝負をかけてくるはずだ。価格は安いが、そこそこ品質がいい「グッドバリュー戦略」。アパレルに例えるなら、ファーストリテイリングの「ジーユー(g.u.)」のような競争価格戦略のポジションだ。昨今の消費者の多くは「それでも十分」という購買意志決定をする。最高の品質・最高の価格という「プレミアム戦略」だけが支持される時代ではない。

 ECサイト最大手の楽天が、同サイトのヒット商品ジャンルを独自の切り口で集計した「楽天市場2009年ヒット商品番付」を2009年11月26日に発表した。前頭三枚目に「家電の二極化/高価・安価」がある。楽天は「価格破壊による安価化と消費者のこだわりによる高価格化の2極化が著しかった」と分析。安価については「メーカーの宣伝費や卸問屋の中間マージンを徹底的に削減したサードパーティモデルが堅調に推移」とし、高価は「高額ヘッドホンのヒットなど、商品機能と消費者ニーズがマッチすると高価格でも売れるということが示された」という。

 昨今の経済情勢を鑑みれば、二極化のうち安価の方にドライブがかかることも想像に難くない。そうなれば、白物家電においては、コストリーダーシップ戦略にモノを言わせることが可能な、世界最大のメーカー・ハイアールが圧倒的に優位に立つことになる。

 ガラパゴスのイグアナが身体を小さくしてしまったように、企業が思っている以上に、日本の消費者心理は小さく縮んでいるのではないか。「身の丈消費」に動いているのではないだろうか。そんな消費者の姿や心理に、もう少し目をこらすべきだと思う。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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