中国のレアアースが手に入らない……調達とは自由への闘争(2/2 ページ)

» 2010年09月17日 08時00分 公開
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買い手側の反撃

 こうした状況の中、日本の鉄鋼各社は手をこまねいているわけにはいかない。鉄鋼各社は、不純物が多かったりするなど品質が低い低品位原料と呼ばれる鉄鋼原料の利用の本格化に着手している。

 神戸製鋼はベトナムに建設する独自設備で、現地の不純物の多い鉄鋼石からアイアンナゲットと呼ばれる鉄鋼原料を製造、日本に持ち込み、高炉で溶かして鉄鋼にする。神戸製鋼は当面、自社の粗鋼生産の1割弱をアイアンナゲットから行う。このアイアンナゲットを用いると、高品位の鉄鋼石を使う場合と比べて、生産コストを2〜5割安くできるという。今後は同様の設備をインドやロシア、オーストラリアなどにも建て、一部を日本に持ち込む。

 新日鉄は、強度が劣る微粉炭を利用しやすくするための最新設備を600億円を投じて拡充する。この設備により、微粉炭の高強度コークスの原料としての利用比率を現在の2割から5割超に引き上げることが可能となる(出所:2010年9月10日、日本経済新聞9面)。

 企業間取引においては、一般に思われているほど買い手の立場は強くない。個人の買い物と異なり、企業がモノを買おうとアクションを起こす時は、それを必要としている時だ。特に資源などの材料や部品は、それを入手できなければ工場のラインが止まってしまう。ラインが止まってしまうと、それに関わる人員、ほかの材料、部品の在庫が遊んでしまう。顧客にすでに納期をコミットしていれば、納期遅延のペナルティが発生してしまうこともある。

 一方、売り手の方はまだ営業段階では何の約束もしておらず、その会社にモノが売れなくてもそのアイテムの在庫が多少ふくらむだけ、営業パーソンのボーナスが一部カットされるだけ。買い手企業はかように実際には非常に弱い立場にある。

 原材料や部品の供給をサプライヤに握られてしまっては、事業運営や経営がままならない。よく言われる「サプライヤとのWINWINの信頼関係を築くのがベスト」というのは、表現としては美しいが、サプライヤに経営をコントロールされる心配のない安全な地位を確保しているごく限られたシチュエーションのみに通じるきれいごとに過ぎない。

 そうした立場にない買い手企業がしなければならないことは、調達における選択肢を増やすこと、経営における自由度を高めることである。そうすることで、供給不足といった不測の事態に対応できるだけではなく、日々の取引における交渉の立場を強めることもできる。自分の今日の行動すらままならないのに、サプライヤと協調などしていられるだろうか? 自分をこうした立場に置くことができて初めて、「サプライヤとのWINWINの関係」を考えることができるのである。

 調達の本質は、こうした調達における選択肢を増やすことにより経営の意思決定の自由度を高めること、つまり、経営における自由を勝ち取るための闘争なのである。(中ノ森清訓)

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