マクドナルドと吉野家が狙う“面”と“点”(4/4 ページ)

» 2010年09月15日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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まとめ

 試食をしてみると、「牛鍋丼」は松屋の「牛めし」の定価である320円に対し、280円という価格なら、十分対抗できるのではないかと思えた。今回、すき家の店舗が新橋になかったので同時には試食できなかったが(店舗があっても筆者1人で4杯の試食は無理)、その280円という価格に対しても、味の好みで分かれるだけで、対抗は可能ではないかと思う。

 吉野家の戦略の1つは、「自社客流出防止」だ。「もっと肉を多く」とか「とにかく味噌汁付きでなければイヤだ」という顧客以外には対応できるのではないだろうか。

 もう1つの狙いが「他社客吸引」である。それに関しては、この牛鍋丼の話題性があるうちは、「一度は食べてみよう」と集客することは可能であるし、味の評価も獲得できるだろう。しかし、牛鍋丼を支持して、これを食べるために通うというほどのインパクトはないかもしれない。

 改めて食べ比べてみると、本論の「牛鍋丼」の味の評価以上に、「吉野家の牛丼のおいしさ」が際立つ結果になったように思う。そして、吉野家が「肉質」にこだわり、某庶民派経済評論家をはじめとする、吉野家のコアなファンがそれを支持する理由も分かる。だとすれば、吉野家復活の糸口は、牛鍋丼で他社客を吸引し、速やかに牛丼にスイッチさせることではないか。それも、今回、筆者が試食した牛丼のように、定価を前提に品質を維持・向上させて提供するようなオペレーションを実現する。そうすることによって、「やはり、牛丼といえば吉野家」というポジションを奪取するのだ。

 まずは、「牛鍋丼」によって、「一人負け」といわれた状態から反撃する材料は1つ用意できたように思う。しかし、メニュー1つで戦況が逆転するほど、牛丼戦争は甘い状態にはないのは確かだ。二の矢三の矢をどう用意するのか。それ以上に、大きな戦略の絵図をどう描くのか。今後に注目したい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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