マクドナルドと吉野家が狙う“面”と“点”(3/4 ページ)

» 2010年09月15日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

牛鍋丼を食べてみた

 9月7日10時から全国発売が開始された吉野家の「牛鍋丼」。自社顧客の競合流出防止と、競合顧客吸引という、まさに社運をかけた新メニュー。人気の牛豚丼、豚生姜焼き定食などの豚メニューも販売を停止して「牛」にかける意気込みを見せている。果たしてその実力はいかほどか?

 販売開始後1時間半、11時30分の新橋店。吉野家の店内は普段より来店客が多いが、1階・2階ともまだ多少の空席がある状況。しかし、厨房には普段を上回るスタッフが投入されていると見え、12時過ぎに戦場と化すことを予感させる空気が漂っていた。

 指揮官たる店長は最前線に立ち、顧客の注文を聞き、厨房に指示を飛ばす。「牛鍋丼」の存在を意識せず、いつも通り「牛丼並」をオーダーし、心変わりして注文を変える客も多い。その指示を確実に伝達することが欠かせないようだ。食券方式ではない吉野家の弱点を店長がカバーする。多忙そうな様子ながら、来店客にはいつもの中国系スタッフが前面に出ている時より、格段にホスピタリティーが伝わっているように思われる。

 筆者は持ち帰りカウンターで「牛鍋丼・並」「牛丼・並」を注文した。来店客の牛鍋丼と牛丼注文比率は半々といったところだろうか。

 比較対象とするため、少し先の松屋に「牛めし・並」を購入するため訪れた。9月6日からスタートしている値引き・250円キャンペーンのためか、11時40分の時点で店内に空席待ちの列ができていた。持ち帰りカウンターに放り投げるように外国人スタッフが弁当を置き、厨房に戻っていく。来店客をさばくのに精一杯で、礼や接客的な配慮をする余裕がまったくない様子が見てとれる。

 事務所にて持ち帰り弁当を広げる。写真左から、松屋「牛めし・並」、吉野家「牛丼・並」「牛鍋丼・並」。今回は肉の量などを計量することはせずに、できるだけできたてを素直に食べて、その印象から考察しようと考えた。

見た目の印象

 見た目では容器の形状の差からか、松屋のものが最も肉量が多く見えた。当然、肉のみに注目すれば、牛鍋丼が最も少ない。しかし、予想したほどしらたきがその存在を主張していない。

 早速、試食に取りかかる。やはり気になる肉を味わってみる。吉野家の牛丼は、同社こだわりの米国産、そして牛丼に最も合うショートプレートという部位だけを用いている。さすがに脂肪分の入り方も適度で柔らかくおいしい。比較すると、松屋の肉はパサつき感があり、筋も感じる。主に豪州及びニュージーランド産だというが、肉質の違いは明らかだ。最後に吉野家の牛鍋丼の肉。米国産9割、豪州産1割を使用し、米国産もショートプレート以外の部位を用いているという。食感は松屋の肉質に近く、牛丼の肉の柔らかさはない。

具材

 肉以外の具材に言及する。まずは注目の牛鍋丼。見た目もしらたきが目立っていなかったように、味や食感もそれほど主張するものではなかった。一切れの豆腐は箸休めというか、アクセントとしてはありだと思うが、それもさほどの存在感を示すものではない。タマネギの量もあまり多くない。故に、肉の量の少なさも相まって、具材全体として、若干ボリューム不足を感じる。肉以外の具材を増やすと「肉が少ない」と批判されるかもしれないが、新しいコンセプトの「牛鍋」なのであれば、その他具材をもう少し濃い目に味付けし、量を増やして主張させてもいいのではないかと思った。

 松屋・吉野家両社の牛丼に関しては、今回、タマネギについて思わぬ発見をした気がした。従来は、吉野家のタマネギは火が通りすぎでクタクタになっていて、食感や味わいが少なく、松屋のタマネギの方がおいしかった。それが、今回は写真でも分かるように、見事に逆転している。松屋は250円・値引きキャンペーン対応で大量仕込みをしていることが原因で、逆に吉野家は、定価で売る牛丼の状態を良くするべく、オペレーションを改善したのではないかと筆者は推測した。

たれ(味付け)

 味付けは吉野家牛丼のタレの味を標準と考えると、牛鍋丼はそれより甘い味付けにして、「牛鍋」らしさを強調していると事前に報道されていた。その味は、食べ比べれば確かに甘いが、単独で食べればそれほど甘みを感じるわけではない。甘さより、意外にしっかりした味付けといった印象だ。9月2日に行われた吉野家本社でのメディア試食会で、多くの記者が「すき焼き風にもなるので、卵がよく合う」と記事にしていた。確かにその通りで、夏期の持ち帰りでは卵は購入できないのだが、それが非常に欲しくなった。味付け的にも、具材の少なさをカバーする意味でも。卵の販売でプラス70円という、吉野家のクロスセル戦略は奏功するように思う。

 食べ比べてみると、昨年、伝統のタレの味を変更したという松屋の味付けが最も甘いのが分かる。甘い味付けと吉野家が言っている牛鍋丼よりさらに甘い。そして、味も濃い。しかし、松屋の店内で牛丼を食べている客は卵を注文する比率はあまり多くない。味噌汁も付いていて、味も濃く、定価320円(キャンペーンで250円)で満足してしまうため、あえて追加コストを払わないということだろうか。味付けの差は、どのように顧客満足を図り、どのようなオーダーを獲得するかという設計にも関わっているのだろう。

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