にわかに雲行き怪しい日中関係藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年09月13日 07時54分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 尖閣諸島近海で操業していた中国漁船の船長を、海上保安庁が逮捕拘留したことで、日中間の雲行きがにわかに荒れ模様になっている。

 中国側は、先週金曜日になって、今月中旬に予定されていた東シナ海のガス田開発に関する条約締結交渉を延期すると発表した。また北京駐在の丹羽大使を12日未明に中国外務省に呼び出し、外交を統括する戴秉国国務委員(副首相級)が「重大な関心と厳正な立場」を表明し、日本側に「賢明な政治判断」をするよう要求したという。

 丹羽大使がこの問題に関して中国外務省から呼び出されて抗議を受けるのはこれが4回目である。それだけでなく、副首相級の国務委員がこうした問題に直接に介入すること自体が極めて異例なこととされ、中国側の「強硬姿勢」が際立っている。

抗議活動が一段とエスカレート

 これに対して丹羽大使は「厳正に国内法に基づいて粛々と処理する。中国側が冷静に、慎重に対応することを期待する」と答えたと報道されている。しかし、中国が矢継ぎ早に圧力を強めているのは、これが尖閣諸島の領有権をめぐる問題であり、そう簡単には引き下がれないからだ。その流れで考えれば、もし中国人の船長の勾留延長あるいは起訴ということになれば、在中国の日本大使館などに対する抗議活動が一段とエスカレートすることはほぼ間違いない。

 一方の日本側も、この尖閣諸島領有権問題で安易に引き下がることはできない。それでなくても、中国人民解放軍海軍の戦力増強には神経をとがらせている。もちろん海軍力だけでなく、中国の軍事予算について菅首相も「透明性を高めてほしい」と発言した。そして年内には陸海空自衛隊と米軍による「離島奪還演習」が行われる。もちろんこれは中国を意識してのことだ。

 ある自衛隊幹部によれば「中国が南西諸島のどこかを占領する事態が発生するのは、台湾有事のとき。九州や沖縄から出動する米軍を牽制するのが狙いになる。その意味では飛行場のある島が狙われる可能性が高い」のだという。

 中国海軍は、すでに今年2回、沖縄本島と宮古島の間を通過している。これは明らかに、日本や米国などに対するデモンストレーション。中国海軍の役割がこれまでの近海艦隊から遠洋艦隊へと変わりつつあること示したものだ。中国海軍がこうした示威行為を行えるのは、日米関係が普天間基地移設問題でぎくしゃくしているためだと米政府関係者は分析している。その間隙を縫って、中国は日米の反応を見るために、やや踏み込んでいるというのである。

 この中国海軍の活動の活発化の先にあるのは、航空母艦を中心とする戦闘群の整備だ。すでに航空母艦の建造を進め、また艦載機の訓練も始まったと報じられた(もっとも、ロシア海軍のある幹部は「航空母艦は運用が難しく、実戦配備には5年ぐらいはかかる」として、差し迫った脅威というわけではないとも解説している)。

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