モノが売れなくなったと言われて久しい。なぜ売れなくなったのか、理由は幾つかあるだろう。みんなが豊かになり、モノが行き渡って欠乏感がなくなったから、収入が減っていて購買力が低下しているから、などなど……。
しかし今でも、売れる商品は売れる。むしろ、大ヒット商品とそれ以外の差が開いていることが多いようにも見える。一握りの「ものすごく売れているモノ」と、その他の「売れていないモノ」に二極化しているともいえるのだ。
「なぜモノを売るのが難しくなったのか? それは、従来のマーケティング手法が通用しなくなってきているからです。これまで使っていたマーケティングデータが、今や役に立たなくなっています」
そう話すのは、アスキー総合研究所の遠藤諭氏だ。アスキー総合研究所は、アスキー・メディアワークスの法人向けリサーチ・メディア部門。遠藤氏は元『月刊アスキー』編集長であり、コンピューターやネット、そこで流通するコンテンツを長年追ってきた人物である。
「これまでは、居住地や職業、年齢といった要素で人々を分類し、そのデータをもとに、さまざまな企画やプロモーションを行ってきました。でも、最近はそれが通用しない。なぜなら、もとにしている調査データが、今のライフスタイルに合っていないからです」
遠藤氏は、この5〜10年で日本人のライフスタイルが大きく変化したと指摘する。「例えば音楽の聴き方1つとってもそうです。今ではみんな(iPodなど)シリコンオーディオプレイヤーを使い、PCで取り込んだ音楽を聴いていますが、MDの販売台数をシリコンオーディオプレイヤーの販売台数が逆転したのは2004年。たった5〜6年で、音楽の聴き方が激変したのです」
「CDが売れなくなった」という話も、この動きに連動している。「消費が、モノからコンテンツに移行しているのです。売り上げを見てもこれは明らか。音楽だけではありません。新刊でマンガを買う人はいまや50%を割っているし、新聞はむしろ情報欲求が強い人からやめている。テレビを『ながら』視聴するのも当たり前になりました。メディアやコンテンツとの接し方が、この5〜10年で大きく変わった。それを踏まえた新しい調査が必要になっているのです」
では、今のライフスタイルに合った新しい調査データとは、どのようなものなのだろうか? アスキー総合研究所が実施している「MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)」は、コンテンツとメディアを軸にして、消費者を分類しようというコンセプトの調査だ。全301設問、5632選択肢、有効回答数は1万580人(総回収数は1万2685人、調査対象は全国12〜69歳の男女)と大規模な調査であり、データ量の多さを生かしてクロス集計もできるようになっている。
「MCSは、メディアやコンテンツに関する消費行動をひとりひとりに細かくたずねた調査です。映画やゲーム、音楽など、コンテンツを主軸とするこれだけの大規模調査は日本初だと思います。どんなメディアを見ているか、どれくらいの頻度・時間で接しているか。MCSでは、こうしたメディアやコンテンツへの接し方をたずねることで、消費者の行動を浮き彫りにしています。
自分の行動を振り返ってみると分かると思いますが、実際にはみんな、ネットやテレビ、紙メディアなどいろいろな世界をまたがって消費行動をしています。でもこれまでは、(テレビの視聴率、雑誌の発行部数など)それぞれの数字はあっても、消費行動全体を広く見ている調査というのはなかったのです。
年齢や職業、居住地といった要素だけではもう、その人がどんな人なのかを分類することはできない。身に付けているものでも分からない。それよりも、どんなメディアに接し、どんなコンテンツを好むのか、そういった要素で人を分類したほうが、その人の人物像に近づけます。例えば『iPhoneのユーザーってどんな人?』とか『趣味でマラソンをしている人ってどんな人?』という切り口です」(遠藤氏)
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