2010年9月9日、キヤノンはインクジェットプリンタ「PIXUS(ピクサス)」の2010年モデル6機種を発売した。今年、10周年を迎えたピクサスは、ブランドマークやロゴの書体を変更し、世界共通ブランドとして新たな展開を求める。
2010年モデルは、全モデルが黒鏡面、いわゆるピアノブラックとなり、シンプルなボックスデザインになった。そこには「REAL BLACK」コンセプトと「インテリアイズム」が見え隠れする。
今回、プロダクトデザインを担当した犬飼義典氏(総合デザインセンター プロダクト第二デザイン部長)と、島村順一郎氏(同プロダクト22デザイン室専任主任)にお話をうかがう機会を得た。彼らが、新しいピクサスに込めた思いを紹介しよう。
かつて、「印刷」することが機能のすべてだったプリンタ(シングルファンクションプリンタ:SFP)はPCの側に設置された。それは、PCデスクであったり、PCラックであったりと、とにかく家庭内において個人の領域に置かれていた。
今日のプリンタは、コピー機能やスキャナ機能、デジタルカメラからの直接印刷機能などを備えたマルチファンクションプリンタ(MFP)が主流になった。1台のプリンタを家族が使うようになったうえ、無線LAN接続が一般的になると、プリンタは家庭の中心であるリビングへ進出し始めた。
その結果、プリンタのデザインに対するユーザーのニーズは、PC周辺機器然としたものから、インテリアにマッチするものへと変わった。同社が2009年に行ったユーザー調査によれば、購入時に重視するポイントとして56.8%が「デザイン性」を挙げている。2007年の調査に比べると6.7ポイントの上昇だ。
「デザイン部門はインテリアイズム、つまりインテリアとプリンタのマッチングを強く意識しています。初めてインテリアとの調和をデザインコンセプトに掲げたのは、2004年秋に発表した『Canon PIXUS iP4100』でした。この真四角なSFPをデザインして以来、その時々の商品の性格やユーザーのニーズによって色や形は変わりましたが、インテリアを意識したデザインを心掛けていますし、これからも続けていきたいと思っています」(島村氏)
PIXUSの先代モデル(Canon PIXUS MP640など)は、シルバーを前面に押し出したデザインだった。銀色のボックスデザインを採用した2008年ごろから、プリンタはPCの周辺機器という位置付けを脱し、リビングでカメラと一緒に使う、親しみやすい商品を目指し始めた。銀色の味付けにしてもキラキラしたものではなく、マイルドな、やさしい感じのシルバーを研究したのだという。
インテリアイズムは、ピクサスの特徴の1つでもある“液晶モニターがふたになって隠す操作ボタン”にも息づいている。
「操作ボタンというものは、住空間の中では特異なものです。だから、従来機種では液晶モニターをふた替わりにして隠せるようにしていました。根底にあるのは、ユーザーが『こうありたい』と思っているインテリアのイメージを、プリンタによって壊したくないという思いです。操作性とかデザイン性といったものは、すべてインテリアとの関係性の中に含んだ形で取り組むものなんです」(島村氏)
2006年に導入した、指でクルクル回して操作する「イージースクロールホイール」は、年々機能が充実していき、PIXUSの象徴的な機能の1つとして認知された。これさえもデザイン面からはインテリアとのマッチングを阻害する要因ととらえ、プリンタを使っていないときは液晶モニターで隠すようにした。
しかし、デザイナーが抱える悩みは残されたままだった。
「それは、操作部として使える面積が液晶パネルのフタの大きさ以下に決められてしまうことです。また、液晶パネルを収納するためにくぼんでいるため、そこには『囲い』ができ、広がりがない。そこで『液晶のユニットでふたをせず、ボタンのむき出しは絶対に回避する』方法を考えました」(島村氏)
その答えは、「メカニカルなボタンをやめる」だった。
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