コラム
» 2010年09月07日 08時00分 UPDATE

高い目標設定と低い目標設定、どちらが仕事で幸せになれるのか (1/3)

「できる人ほど仕事が集中する」―――これは組織における仕事分布の法則である。そしてできる人、頑張る人ほどカラダを壊す。そんな中、組織には能天気に雇われ続ける人もいたりする。なら、いっそ能力や向上意欲などないほうがシアワセなのかもしれない……そんなことを考えてみた。

[村山昇,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:村山昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。企業・団体の従業員・職員を対象に「プロフェッショナルシップ研修」(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)を行なう。「キャリアの自画像(ポートレート)」を描くマネジメントツールや「レゴブロック」を用いたゲーム研修、就労観の傾向性診断「キャリアMQ」をコア商品とする。プロ論・キャリア論を教えるのではなく、「働くこと・仕事の本質」を理解させ、腹底にジーンと効くプログラムを志向している。


 山は、登る者にさまざまな楽しみを与えてくれる。たとえ山頂まで登りきらずとも、途中途中で十分に自然を満喫させてくれる。今、Aさんは5合目まで登ってきた。そこには視界の開けた場所があり、ふもとの村も見渡せる。心地よい風も通る。Aさんは木陰に腰を下ろし、「ここまでの景色でもう満足」と弁当を広げはじめた。満腹になったAさんはもう下山のことしか頭にない。

 一方、Bさんは高い位置に登れば登るほど視点が変わって、もっと景色を楽しめることを知っている。だから5合目で休憩をとった後、登山を続ける。しばらく上がっていく間に、急に天候が悪化してきた。霧が周囲を覆い、景色などさっぱり見えなくなった。Bさんにとってその山は初めてだったので、6合目まで来たのか、7合目まできたのか感覚的にもさっぱり分からなかった。雨も降り出し、やむなく下山することに。

 ふもとの村に下りると、Aさんが温泉につかり、すっかりくつろいでいた。「いやあ、こんな天気になってしまい残念でしたねえ」……まったく悪気なく声を掛けてくるAさんに、Bさんは「いやー、お天道さまばっかりは恨むわけにもいきませんから……」と答えるのが精一杯だった。

 ……さて、ここでは「幸福感」ということを考えたいのだが、冒頭の話において、果たしてAさんの方が幸福なのだろうか、それともBさんの方が幸福なのだろうか?

 つまり、Aさんは5合目までを望み、5合目の景色を楽しんだ。だから、Aさんの望みの満たされ度は10割だ。一方、Bさんは頂上(10合目)を望み、5合目以上の景色は楽しめなかった。その意味では、満たされ度5割である。そのうえ悪天候でズブ濡れになって体力は消耗するわ、危険にもさらされるわ、というネガティブなおまけ付き。

 単純に、望みがどれだけ満たされたかという指数で見る限り、「満たされ度10割のAさんはより幸福であり、満たされ度5割のBさんはより幸福でない」と言える。

 もちろん、もし、この日ずっと天候が良かったなら、Bさんは頂上まで登り、満たされ度10割となって、Aさんより幸福になれたかもしれない。しかし、それはあくまで「タラ・レバ」の話。登山は常に、一歩一歩上ろうとするたびに、体力消費と諸々のリスクが増えることを覚悟しなければならない。

いっそ頑張らない方がシアワセなのか?

 この問題は言ってみれば、「low aimer」(=低い目標設定者)と「high aimer」(=高い目標設定者)のどちらが幸福なのか、そしてまた、あなたはどちらの生き方を選ぶか、という問いとなる。

 この問いは、J・S・ミルが投げかけたあの有名な言葉「満足した豚よりも不満足な人間、満足した愚か者よりも不満足なソクラテスであるべきだ」を思い出させる。

 私たちは組織で働いていると、しばしば次のような法則を目にする。それは、「仕事ができる人ほど仕事は集中する」ということ。仕事ができてしまう人は、仕事量の増加とともに、目標も常に上へ上へと移動している。だから、常に目標と現実の自分とのレベルギャップにプレッシャーやストレスが付いて回る。そしてカラダを壊すことも時に起こる。

 自分が“仕事ができる組”に入ってしまうと、「仕事をしかられないレベルでやり過ごし、無難に雇われ続けている人間はいいなあ」と思えてくる。いっそ自分に能力とか、向上意欲とか、責任感とか、野心とかがなく、“仕事をそこそこやり過ごし組”になれたらなあ、むしろシアワセなのになあと思う。不満足な「high aimer」は、満足した「low aimer」を見て、そのように時々うらやましくなる。

 その一方、満足した「low aimer」は、不満足な「high aimer」を見て、何をあんなにしゃかりきに頑張ってばかりいるんだろう、といった不思議な面持ちで彼らを眺める。余談だが、あの働き者生物の代名詞であるアリの世界にも、「怠けアリ」というのがいて、集団の何割かは働かないアリが占めるそうだ。

 さて、幸福感は実に多面的で語ることが難しいのだが、ここで私の考えたことを5つにまとめたい。

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