なぜ経営者は「社員と価値観が共有できている」とウソをつくのか吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年09月03日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

「対等な労使関係の時代」へ突入

 もちろん、これらの会社は歴史のある大企業ではないので、あらゆる面で不備が目立つ。経営者からすれば、私の指摘などは「きれいごと」に聞こえるのだろう。仮に労働条件に敏感な社員が増えて、「給与を上げろ!」と息巻く労働組合ができたら、企業の成長が止まる可能性もある。大企業ならともかく、中小やベンチャー企業では避けたいに違いない。

 しかし、このような考え方は「古き良き時代」のものでしかないと思う。つまり、1990年代前半までくらいの安定成長のもと、昇給や昇格をきちんと行い、社員の心を満たすことができたころの価値観なのである。このような状況ならば、経営者層が人事制度を大胆に変えても、あるいは少々、強引なことをしても会社員はおおむね黙っていた。

 だが、いまや昇給がないどころではない。私が知る限りでは、30代前半の正社員にまでリストラが及ぶ。ここまで状況が悪くなれば、いつまでも経営者の言いなりにはならないだろう。もう、社員たちの会社への関わり方が変わりつつあるのだ。それを裏付けることがごとく、労働基準監督署などに労働条件の不備などで相談に行く人の件数は増え続けている。

総合労働相談コーナーへの相談件数(出典:厚生労働省)

 ところが、中小やベンチャー企業の経営者の中には今なお、こういう社員を「モラルが低い」とか、「心の病」とレッテルを貼るなどして、自分たちの行為に正当性を持たせようとする人がいる。

 この手の会社の経営者を観察していると、とかく「価値観共有」という言葉を使いがちだ。だが、そのように問題点をすり替えるのではなく、時代認識を変えた方がいい。いまや、「対等な労使関係の時代」に突入している。それを踏まえ、労働条件などを1つずつ改善していくことが必要ではないだろうか。給与や賞与、配置転換、転勤、サービス残業など取り組むことは山積みのはずだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.