“引き算+α” 独自路線を歩む三菱の家電戦略(3/3 ページ)

» 2010年09月03日 08時00分 公開
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デザイン性と味とを両立させた炊飯器

 最後に、8月1日に発売されたばかりのIHジャー炊飯器「炭炊釜」の新製品についても着目してみましょう。

 三菱電機の炊飯器といえば、10万円という高価格炊飯器の先駆けとなった「本炭釜」や、蒸気が出ない安全性とスクエアなデザインで評判となった「蒸気レスIH」がよく知られていますが、「炭炊釜」のシリーズは、最高級の炊飯器の下の“ミドルクラス”と言われる価格帯のもの。昨年モデルまでは、本炭釜には採用していなかった圧力IHの炊飯方式を採用し、三菱ならではの吸水方法「可変超音波吸水」などとの合わせ技で、好みの食感で炊き分けられるなど、独自の立ち位置にあった炊飯器でした。

 ところが、ニューモデルでは圧力炊飯をやめ、デザインも一新。「蒸気レスIH」を思わせるスクエアな形にしたうえに、奥行きを20%もコンパクトにしています。

「炭炊釜」最新モデル(出典:三菱電機)

 圧力炊きをやめ、コンパクトでシンプルなデザインに変更した「引き算」の炊飯器ですが、これはユーザーからの要望が多かった「キッチンのスライド棚にもすっきり収納できるもの」「オープンキッチンにもマッチするデザインのもの」という声を具現化した結果なのですよね。

 ただし、機能を省いてシンプル設計にしたわけではなく、高火力の連続沸騰を実現させるために、吹きあがるネバネバをキャッチするカートリッジ部分の構造を全く新しいものに変えています。蒸気レスではないですが、本体のデザイン性とご飯のおいしさの両立を実現。コンパクトでごはんをよそいやすい炊飯器になっていて、価格も本炭釜や蒸気レスIHよりも抑えられているという点で、ユーザーにとって、とても魅力のあるものになっています。

“引き算+α”は明確なターゲット設定があればこそ

 多機能・高機能化が目立ち、魅力的に見えて購入した家電なのに、使いこなせずに宝の持ち腐れになってしまう……そうしたことがないようにと、あえて目指した“引き算+α”のもの作り。でもこれは、除湿乾燥機のターゲットを「部屋干しをする人」、IHクッキングヒーターのターゲットを「シルバー層」、炭炊釜のターゲットを「収納性&デザイン性を求める人」というように、明確なターゲット設定があればこそできるものなのだと思います。

 そうすることによって、これまで「どれも同じようで、どれを買っていいのか分からない」と思っていた人たちが、「これこそが私の欲しいものだった」のだと認識できるのですよね。よく聞かれる“他社との差別化”という言葉を具現化するには、思い切ってターゲットを絞り、必要な機能を見極めることが大切なのかもしれません。

 ……と、独自路線を歩んでいる三菱電機の家電を分析していたら、8月24日に2011年の家電戦略についての発表会があり、目指しているのは“使いやすさ革命”ということが明らかになりました。製品の高度化・多機能化だけでなく、最新の便利で高度な機能を使いこなせるようにという、ユーザー視点の中でも特にユニバーサルな視点に基づいた家電シリーズ展開について発表がなされたということです。その名も「らく楽アシスト」。先に紹介したらく楽IHは、その前哨戦とも言えるものだったのでしょうね。(神原サリー)

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