コラム
» 2010年09月02日 08時00分 UPDATE

郷好文の“うふふ”マーケティング:草履に編み込まれた“メリヤスパーツの物語” (1/3)

江東区の町工場、小高莫大小工業が余った布から作った草履。入荷後すぐに売り切れるその秘密は、青森県の職人たちとコラボして製作した過程を物語で伝えるマーケティングにあった。

[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「マーケティング・ブレイン」(コンサル業)、「cotoba」(執筆業)。Twitterアカウントは@Yoshifumi_Go


 鼻緒の凛とした顔付きがいい。マーブルの色合いがいい。その草履を手にすると、しっかりした形でありながら、心地よい柔らかさもある。随所に良心を感じるつくり、そして色が混ざりあった“霜降り”の小判底の柄が個性を高めている。

 一品物の布草履「めりやす草履」は“混布”で作られている。混布とは食べるコンブではなくて、いくつかの種類の糸を混ぜた編み物(テープ)のこと。それが草履の本体となる。テープを製造する小高莫大小工業(こだかめりやすこうぎょう、江東区)の社長、小高集(つどい)さんは言う。

 「職人が手編みしやすいような、しっかりとしたオリジナルのテープを作るまでに1年かかりました」

 職人のおばあちゃんたちがいるのは、青森県の八戸駅からクルマで1時間半ほどの距離にある奧の村。山間で静かに丁寧に編まれる草履の素材は、江東区から送られているのだ。

ah_IMG15581600.jpg めりやす草履

ハギレが生んだ青森の工房との出会い

 2年前のある日、小高さんのもとにネット経由で「ハギレを譲ってくれませんか?」との問い合わせがあった。発信元は青森県新郷村の「朝市工房福ふく」。原反のハギレから1点ずつ草履を作る工房に、2年前リーマンショックが押し寄せた。地域の繊維工場が次々と閉鎖してハギレが出なくなってしまったのだ。材料仕入れに困ってネットで探したところ、メートル単位で“リブ”を売る小高莫大小工業を見つけた。

 小高莫大小工業の“莫大小”をメリヤスと読める人は少ない。メリヤスは伸縮するニット生地を総称する用語で、代表格はポロシャツの袖口や襟のパーツ、つまりリブである。小高莫大小工業はリブのトップメーカーなのだ。

 小高さんは福ふくの求めに応じて残布を送ったが、定期的に送るのは難しい。どんな残布が草履の素材として適するのかも分からなかった。しばらくすると、「お礼に」といって1足の草履が送られてきた。その完成度や履き心地の良さに驚嘆した小高さんは思った。

 「これで“小高オリジナル草履”を作れないだろうか」 

 そこで、40年選手の編み機を使って、残糸から原料となるテープを作って福ふくに送り、意見を求めた。返ってきた意見をもとに、テープの固さや厚みを再調整。こんな繰り返しを毎月続けて1年、「ようやく適する紐ができた」と思った時、愕然とした。

 「これじゃ福ふく工房の草履と変わらない」

 福ふく工房の草履と小高莫大小工業の草履の区別が付かなくなってしまったのだ。同じ素材から作っているのだから、それは当然のこと。小高さんは腕を組んで2つの草履を見比べた。

 すると気付いた。工房の草履は紐の柄が無地。それは糸を選んでいるからだ。だが、どうせ残糸で作るなら、糸を選ばず、その時余った糸を組み合わせればいいのではないか、と。

 こうしてできたのが“霜降り”の紐である。色の混じり具合が絶妙で、やさしい雰囲気となった。残糸から作るために同じ柄の紐は何メートルも作れず、希少性と色合いがウケて“混布”の草履は室内履きとして重宝され、入荷後すぐに売り切れる。

ah_tudoi.jpg 小高集さん
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