閣僚の軽い発言は、政治主導の弊害なのか相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年09月02日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
偽装通貨』(著・相場英雄、東京書籍)

 同様に、筆者や市場関係者があんぐりと口を開ける事態が、先の8月16日にも同じくGDP(2010年4〜6月期)で起こった。筆者は同日、夕刊紙・日刊ゲンダイの記者から事態を聞かされ、再度仰天した次第だ。

 GDP発表を受けた内閣府の会見で、津村啓介政務官が日本経済について「既に踊り場入りしているかもしれない」と発言。その後、担当である荒井聡経済財政担当相が「踊り場入りしているとの表現は当たらない」と発言したのだ。

 何度も繰り返すが、GDPは経済統計の“王様”である。当然、政府見解は統一されていなければならない。本稿ではどちらの見解が正しいのかを追及しているのではなく、そのズレが生じたことを問うているのだ。

 直近のGDPは、市場予想を下回る内容だった。当然、政府の認識は市場にとって重大な要素となる。津村政務官の発言が内閣府の正式見解ならば、外為市場では円売り、株式市場でも売り材料となる。が、荒井大臣の発言が正解ならば、統計上のアヤ、落ち込みは一時的で円買い、あるいは株式市場全体が上昇するきっかけにもなり得たわけだ。

 「欧州の財政問題、米国景気の二番底懸念ばかりに市場の関心が集まり、日本経済の現状認識は二の次だった」(銀行系証券)ことから、両者の認識のズレが幸いなことに混乱を招くことはなかった。

 仮に、日本経済の善し悪しが世界中の関心事だったとしたら、両者の発言のズレを巡って主要市場は乱高下。最終的には、経済に疎いと冷やかされる機会の多い菅首相のコメントを求め、内外の記者が殺到していただろう。

“政治主導”の弊害か

 当コラムで何度も触れてきたが、筆者は政治取材の経験がない。また、政権交代後の永田町や霞が関取材の機会が減っているため、閣僚、そして主要官庁の官僚、事務スタッフがどのような密度で閣僚と接しているかは詳細を知り得る立場にない。

 ただ、一番懸念しているのが、民主党が掲げる政治主導のスローガンなのだ。直嶋氏は2009年11月のフライングのあと、国会答弁で「事務方から聞いていなかった」旨の答弁を行った。GDPのような指標の持つ意味合い、市場へのインパクトの大きさを知らなかった直嶋氏の見識の問題もあるが、これらを事前にレクチャーしなかった官僚にも重大な責任があるのではないか。

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