ハデハデ靴・メレルの「大ヒットのヒミツ」と「挑戦」それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年09月01日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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山ガールを取り込んだカラーバリエーション

Creative commons. Photo by molotalk

 背景にあるのが、「山ガール」の増加だ。「森にいそうな女の子」をテーマとする、ゆるく雰囲気のあるモノを好む若い女性の服装やライフスタイルを指す「森ガール」とは違い、山ガールは本気で登山やアウトドアを愛する女子のことを指す。

 ちょうど前出の記事と同日の日経MJ3面コラム・「底流を読む」に、「山ガールにみる需要想起」という記事が掲載されている。日本生産性本部の「レジャー白書2010」によると2009年の登山人口は前年比2.1倍に急増した。今年もさらに増えている。ブームのけん引車は「山ガール」とある。

 レギンスに見立てたサポートタイツや、山スカートなど、従来の山好きなおじさんたちが見たら、「山をなめるな!」と怒りだしそうなファッションに身を包み、北アルプス、八ケ岳連峰などを闊歩(かっぽ)しているのだ。

 Webサイト「NAVER」にどんな格好か、画像がまとめられているので見てみてほしい。

 このトレンドをいち早く見抜いたメレルは、米国からの輸入品である、従来の地味なカラーの商品では、ブームに乗ることはできないと判断し、日本独自のカラー展開を米国本社に掛け合い、反対を押し切って承認させたことで実現させたという。

 「山ガール」にとって、アウトドアシューズのカラーバリエーションは、「実体」たる「欠かすことのできない価値」なのだ。なぜなら、山や屋外で「足の保護」がなされ、「歩きやすさ」が確保されているだけでなく、「オシャレでいられること」も、「実現したい中核たる価値」であるからだ。

 2009年11月20日付日経MJでは、スポーツ用品店「オッシュマンズ・ジャパン」の同年10月の売上高をもとに登山靴のランキングを発表しているが、メレルの「カメレオンIIストーム ゴアテックスXCR」が首位に立っている。

 余談ながら、実は筆者もシリーズの目にも鮮やかな色にひかれて朱赤のシューズを購入し、「せっかく靴もあることだから……」と昨夏は立山を歩いてきたのであった。まさに同社の戦略に乗った1人なのだ。

 ソニーの創業者、故・盛田昭夫氏は著書『21世紀へ』の中で「製品を商品としようとする場合には、その製品を手に入れたいという欲求を人々の間に喚起させなければ、いかに優れた製品であっても商品にはなり得ない」と述べている。

 記事によると、メレルは今後さらなるチャレンジを考えているようだ。

 「メレルはほぼシューズが中心。今後はウエアなどの販売にも力を入れ、全身でメレルを楽しんでもらいたい」とメーカーのコメントが掲載されている。ザ・ノースフェースなどの総合アウトドアブランドへの挑戦だ。その戦略として、顧客に占める女性の比率は現在、3割にとどまるが、将来は5割まで引き上げる考えだという。

 筆者はザ・ノースフェースのファンでもあるのだが、同ブランドもなかなかビビッドなカラーのウエアも展開している。しかし、メレルとしては、「アウトドアブランドで“色”といえばメレル」という、トップ・オブ・マインド(第一想起)を獲得することが求められる。かつて、「カジュアルウエアで“色”といえばベネトン」というブランド想起がなされていたように。

 アウトドアは山に限らない。夏のコンサート「フェス」でもメレルのアウトドアシューズが目立つらしく、最近は「川ガール」や「海ガール」も出現し始めているという。

 メレルのターゲット顧客層はどんどん拡大している。しかし、ライバルも多い。その心をどこまでつかむことができるか、同社の挑戦に注目したい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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