コラム
» 2010年08月30日 08時00分 UPDATE

ちきりんの“社会派”で行こう!:“ぜいたく”が許されない人々 (1/2)

『五体不満足』の著者、乙武洋匡さんがあるインタビューで発した言葉に驚いたちきりんさん。その言葉を取っ掛かりとして、「ごく普通のことが、許されない“ぜいたく”のように言われてしまう人たちがいるのではないか」とちきりんさんは問題提起します。

[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年2月24日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


ah_tiki1.jpg 『五体不満足』

 ずいぶん前ですが、『五体不満足』という自伝がベストセラーとなったころ、著者である乙武洋匡さんのインタビューをテレビで見ました。

 「街で一番大変なことは?」という司会者の質問に、乙武さんは「彼女とラブホテルに行くと段差があって大変なんですよ。場所柄、誰にも助けてもらえないし」とにこやかに答えられました。ちきりんは、この答えを聞いて“プチ驚愕”しました。

 お笑い芸人や深夜のお色気番組ならともかく、一般の人がテレビで“自分が彼女とラブホテルに行った時の話”をすることはほとんどないでしょう。テレビでこういう発言をすれば、彼女の父親の耳にも話が届くかもしれません。たとえ彼が未来の婿であれ、20歳そこそこの自分の娘とラブホテルに行ったと彼氏がテレビで語っている時の気持ちはどんなものでしょう。父親の性格によっては「ぶんなぐってやろうか」くらいに感じてもおかしくないはずです。

 乙武さんもそんなことは十分に理解されていたと思います。それでも彼が影響力の大きいテレビ番組でわざわざそういう発言をした背景には、やはりそれなりの理由があったのではないでしょうか。

 “車いすは段差の多い街で大変”という話をしたいだけなら、駅前の放置自転車の話でも、近くのスーパーマーケットの入り口の段差の話でもいいんです。なぜわざわざラブホテルの段差なのか。

 乙武さんは「ラブホテルへ行くことも含めて、障害者が健常者と同じような生活をすることは当然であって、ぜいたくなことでもおかしなことでもないのだ」というメッセージをこの発言に込められたのではないでしょうか。彼が言いたかったのは決して“街中にある段差”の話だけではなかった。だからあえてこういう例を選ばれたのかなと思いました。

 恐らく彼はずっと言われてきたのでしょう。「(そんな障害があるのに、)大学に行くなんてすごいね」「(そんな体なのに、)彼女がいるなんてすごいね」と。周りの人はもちろん彼の努力や成果に驚き、賞賛してそう言うのでしょう。でもその度ごとに「みんなにとって普通のことは、私にとっても普通のことであり、すごいことでも特殊なことでもないはずなのに」と乙武さんは感じていらっしゃったのかもしれません。

 あの時の彼の、とても自然な「何の気負いもなく僕はこの発言をしています」というその態度もまた、「僕はこれを言わねばならない」という気持ちをストレートに伝えていました。青筋を立てて主張するのではなく、さらりと自然に伝えることの効果も含め、よく理解されているように見えたのです。

 ちきりんにとってあの場面は、その後も長く記憶に残っています。

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