警察による“死因操作”はあるのか? 銀行トップの自殺を巡って相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年08月26日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 芸能人や政界、経済界の重鎮が自ら命を絶てば、メディアに取り上げられることは、多くの読者がご存じの通り。心労、生活苦、自殺に至る動機はさまざまだが、この中には死因が歪められているケースが間違いなく存在する。今回の時事日想は、筆者が実際に取材したケースとともに、「自殺」に触れてみる。

証言が翻る

 「誤報だろ?」――。

 今から10年前、あるニュースの第一報に触れた際、筆者の口から思わず出た言葉だ。「地方出張中の某大手銀行のトップが心労からホテルの部屋で首吊り自殺した」との報道だった。

 筆者は当時このトップを何度も取材し、動向をつぶさに追っていた。柔らかな物腰とは裏腹に、強い意志を持つ人物だった。それだけに、自殺という死因がどうしても信じられなかったのだ。

 同トップの部下や縁者の多くも第一報に接した際、筆者と同じ感想を抱いたと後に取材を経て知った。この中には、「心労で自ら死を選ぶというのであれば、彼は数十回自殺していなければならない」と断言する複数の元部下の証言も得た。

 当時、同氏の死を扱った地方の所轄署は、複数の遺書が残されていたことから即座に自殺と断定。行政解剖や司法解剖を経ることなく、遺体は荼毘(だび)に付された。

 ただ筆者だけでなく、他紙や他局の記者たちも所轄署の発表に不信感を抱き、追加取材に走った。すると、同トップが死亡したホテルの隣室宿泊客から、死亡推定時刻に近い時短帯に、激しく言い争う声やもみ合う物音が聞こえため、「ホテルにクレームを入れた」との証言があったことが判明した。

 当時、同トップが不良債権処理で難題を抱えていたため、他殺説や謀殺説がメディア関係者の間で根強くささやかれた。地元警察を担当した筆者の後輩記者によれば、「所轄署副署長(広報担当)は口を閉ざし、逃げ回るばかり」だったという。後輩記者は「上層部からなにもしゃべるなという圧力を受けているとの印象を強くした」と言及していた。

 同時に、隣室宿泊客のクレームを巡る証言はなぜか取り消された。宿泊客は「なにも聞こえなかった」と証言を180度翻したのだ。ホテル側も同様だった。

 当時から現在に至るまで、筆者は同トップの死が自殺ではなく、他殺だったと考えている。

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