巧妙! 「蚊に効くカトリス」のCMに隠されたワナそれゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年08月25日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2010年8月20日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


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 「蚊取り線香」に始まり、「殺虫剤キンチョール」、化学ぞうきん「サッサ」、使い捨てカイロ「どんと」などの数々の商品を世に送り出してきたのは大日本除虫菊株式会社。その名前が意外と知られていないのは、「金鳥(KINCHO)」のブランド名があまりに有名だからだろう。そして、その知名度はCMの効果によるところが大きい

 1986年「タンスにゴン、亭主元気で留守がいい」、1991年「ムシムシコロコロキンチョール」、1992年「30日、30日イッポンポン、キンチョウリキッドイッポンポン……」。いくつもの大ヒットCMを世に送り出してきた。そして、今、ネット上でも大きな話題となっているのが「蚊に効くカトリス」のCMである(蚊に効くカトリス「実験」篇CM動画

 「こんなことでCMになるのかの実験」と半ば自虐的な歌で、クスッとでも笑っていただけたら、こちらの狙い通りですとホームページでCM制作のエピソードを伝えているが、ズバリ狙い通りTwitterでは「カトリス」のキーワードでいくつものツイートがヒットする。gooのブログ検索やkizashi.comの検索でも多数のブログが話題として取り上げていることが分かる。口コミ効果バッチリ。

 インパクトのある歌声と歌詞が話題になりがちだが、それが思い出される時、同時にCMの映像も脳裏に浮かばないだろうか。「ドライアイスをかけてみました」というテロップに続き、煙がきれいに周囲に拡散していく、あの映像だ。Webサイトでは、「効き目が広がっていく様子をどうやったら視覚的に伝えられるか……いろいろ試行錯誤した中で、ドライアイスをかけるのが最も分かりやすかったので、これを採用しました。カトリスは、煙もニオイもないけれど、ちゃんと効いていることが分かっていただけたでしょうか」と伝えている。まさに、それがこのCMで伝えたかったことなのだ。

 除虫剤の歴史をひもといてみれば、1890年(明治23年)に世界初の棒状蚊取り線香「棒状蚊取り線香」が発売された。その後、改良が加えられ、 1902年に渦巻型蚊取り線香が発売された。1910年に「金鳥」の商標が登録され、以後、「金鳥蚊取り線香」が除虫剤の代名詞となり、第2次世界大戦前には世界約80カ国に輸出されるヒット商品となった。

 長きにわたる王座の地位に挑戦者が現れたのが1963年のこと。噴霧式殺虫剤トップシェアのフマキラーが、世界初の電気蚊取り器「ベープ」を世に送り出したのだ。化合物をマットにしみこませ電気で加温することで、蚊取り線香より高い効果と長い燃焼時間を実現した。しかし、それは当初まったく売れなかった。「ベープマット」は安全性と、燃焼時間、煙が出ないという点において、蚊取り線香に対して明らかな優位性があったにもかかわらずだ。ここに今回のCMを読み解くヒントがある。

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