Zyngaは“無料”カフェ経営ゲームでどのように課金させているのか野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/3 ページ)

» 2010年08月18日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

Zyngaが運営するゲームの有料アイテム

 アイテム課金のゲーム経験がある方はご存じのように、すべてのアイテムが有料販売されているわけではなく、無料で利用できるアイテムも案外と多く用意されているものだ。むしろ、有料アイテムの点数の方が少ないゲームもあるが、それでも豊富な無料アイテムでは飽き足らず、有料アイテムが欲しくなるのはなぜだろうか。

 このところ筆者は、米国SNSのFacebookに展開されているソーシャルゲームをプレイしていたが、有料と無料の区分けという点について、Zyngaが秀でていると感じた。

 Zyngaの『Café World』(月間アクティブユーザー7570万3716人、8月13日時点)は、カフェ経営をシミュレーションする人気アプリである。レストラン・カフェ系アプリには、Playfishの『Restaurant City』(月間アクティブユーザー2220万1975人、8月13日時点)を先発として、そのほかにも類似アプリがあるが、なぜか筆者は『Café World』にはまっていった。

『Café World』

 例えば、『Restaurant City』は、複数の食材を調達して前菜とメインを組み合わせるといった、高いゲーム性が魅力だ。それに対して、後発の『Café World』は、レシピは単品であるし料理工程も3クリックだけと、ユーザーが操作できるゲーム要素が簡略化されている。それでもついアクセスしてしまう理由は、ゲーム展開のテンポの良さと、アイテムの有料無料のマネジメントにあると分析した。

 ひと言で言うならば、「引っ掛からない感じ」なのである。ソーシャルゲームの場合、軽い気持ちや友達に誘われてプレイを始めることが多い。その時に、チュートリアル(入門編)が難しいなど、初回アクセスから「引っ掛かる」とそこで断念してしまう。往々にして、ゲームを進めていけば自然に分かることなのに、すべて最初に伝えようと字数ばかり多いチュートリアルがみられる。逆に、分かりやすくても、奥行きが感じられず、先行きが容易に想像できてしまうのも問題だ。こうしたユーザー心理とはお構いなしに、序盤から有料アイテムばかりアピールしていれば、気持ちは離れてしまう。

 ここがコアユーザー向けのゲームと違うところだ。ゲームに貪欲ではないユーザーに対して、未知の楽しさを、分かりやすく短い時間でプレゼンすることが最大の課題になる。

 『Café World』では、チュートリアルに沿ってプレイしていると、テーブルの配置によって客の動きが変わってくるのに気付く。そのうち、どうしたらカフェのオペレーションが効率的になるか、自分でも試行錯誤して楽しむようになる。筆者の場合、画面上に表示される来客数を最大値にすることを、とりあえずの目標にした。

 数時間もすれば、来客数を現状で最大にする方法が分かり、最初の課題は解けてしまった。一通りゲームの楽しみ方が分かってきたところで、有料アイテム購入も視野に入る中級段階になる。

 この段階でのキーワードは「制限からの解放」である。手詰まり感や限界を感じさせるものが出現する。いくら頑張っても、小さな店舗のままではやれることに限りがある。現状での作りこみが限界に達した時、自分の店を広げたいと思うのは自然な欲求だろう。

 この時、有料化されるのは、ゴージャスなインテリアとともに、店舗の増床という制限解放機能である。『Café World』では、友人を招待(インバイト)して増やすか、有料アイテムを購入することで、店舗増床の恩恵を受けることができる。後に追加された、合成アイテム生成などのクエストも、友人数を増やすか有料アイテムを買わないとできない仕組みだ。当初は簡略化されたゲームだと感じたが、こうした中上級者向けの内容が随時追加され、数カ月経ってみるとかなり奥行きのあるゲームに進化していた。

 プレイの限界が、友人招待か有料アイテムによって突破できる仕様は、ソーシャルゲームによく見られる設計である。

 Zyngaの宝探しゲーム『Treasure Isle』(月間アクティブユーザー1679万8986人、8月13日時点)では、宝探しの場所について限定が加わる。これを解消するには、友人を増やすか、有料アイテムを購入しなければならない。もちろん、ここでゲームが中断されるわけではなく、別のマップが追加されていくのだが、キーロックがかかった地図が毎回表示されることになる。有料にしないとゲームを続けられない作りにするのではなく、キーロックという限界を演出するのである。

『Treasure Isle』、友人を増やすか、有料アイテムを購入すると宝探しできる場所が増える(右)

 無料でたっぷり遊ばせて、ゲームを続けたいと思わせた上で、それを引き止める限界を演出する。単純に考えると、ボトルネックになる邪魔ポイントに、ゲーム進行上に欠かせない重要アイテムを配置し、そのまま有料化すればよいことになる。しかしこれを直接的にやりすぎると、ユーザーの逃げ場をなくし、かえって離反を増やしてしまう。有料でしかプレイ続行できないなら、そこでゲームをやめるか有料アイテムを買うかという大きな選択を、ユーザーに迫ることになるからだ。大きな選択は、ユーザーの心理的取引コストを高くすることになる。

 マネタイズの本質は、ユーザーの心理的負担の少ないルートを用意することにある。アイテムはゲームの中でしか意味を持たないのでほかと比べられず、その価格が高いか安いか判断が付かない。無料で利用させることで初めて、有料アイテムの価格に対して判断基準が生まれる。ユーザーに判断基準を持たせることによって、心理的取引コストを下げることができるのである。

 限界の演出は、基本は「引っ掛からずに」流れて気持ちがよいゲームプレイと、セットにならねばならない。ユーザーがつまらない所で引っ掛かるようでは、意図的な引っ掛かりである限界が上手く演出されない。そのためには、日々のデータ分析によってゲーム設計や表示を変える科学的アプローチが前提となる(「『走りながらマーケティングする』――データに支えられたソーシャルゲーム運営」参照)。ユーザー行動を科学的に分析しつつ、アイテムの有料無料の管理を徹底するのである。

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