日本の医療は崩壊してる? それとも期待の産業なの?ちきりんの“社会派”で行こう!(1/3 ページ)

» 2010年08月16日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年3月11日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 最近、「医療観光(参照リンク)」という言葉をよく聞きます。アジアの富裕層向けに質の高い日本の医療を提供して、外貨を稼げる産業として売り込んでいこうという話です。確かに可能性のある分野だと思うし、日本の医療は十分に競争力もあるでしょう。

 しかし、つい最近まで「医療崩壊」や「救急患者の受け入れ拒否問題」がマスコミで騒がれていたことを考えると、日本人患者さえまかないきれない体制で、海外の顧客向けビジネス(?)という話が出てくるのは不思議な気もします。

 そもそも、この業界の問題は本当に分かりにくいです。医療崩壊の原因の1つとして、「医者不足」が言われるのですが、それが根本的な原因なら解決方法は明確です。「大学の医学部定員を増やす」以外に解はありません。ところが、「医者を増やすと、医療費が増える」と怖れる厚生労働省が消極的なことに加え、日本医師会でさえ医者増には消極的に見えます。ようやく2008年から定員増が始まりましたが、ご存じのように彼らが医者として働き始めるのは最短でもその6年後からです。

医師数・看護師数の国際比較(OECD諸国、2007年、出典:社会実情データ図録

 2つ目としてよく聞くのは、「医者の絶対数は不足していないが、偏在が問題である」という意見です。ところが、これもはっきりしない話です。例えば、「過疎地の医者不足」という話はよく聞きますが、よく報じられる救急患者の受け入れ拒否問題の多くは、東京や大阪など大都市の事例です。偏在とは「ある所では余っているのに、別の場所では足りない」という意味ですよね。過疎地でも東京でも医者が足りないとすると、いったいどこで医者は余っているのでしょうか?

 診療科別に見ると、医者不足がよく喧伝されるのは産婦人科や小児科ですが、一方どこかの診療科で医者が余っているという話を聞いたことがあるでしょうか? 外科も内科も麻酔科も、医者が余っているとは聞きません。

 感覚的に「競争が激しそう=供給側が多そう」と感じるのは、コンタクトレンズ店併設の眼科と、美容整形外科ぐらいですが、偏在が本当なら、解決には「分野ごとの適正人数と現状の人数、その格差」が記された一覧表が必要なはずです。しかし、そういう基礎的な情報さえなかなか手に入りません。

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