なぜ、胸を“小さく”見せるブラが売れるのか?(1/2 ページ)

» 2010年08月13日 08時00分 公開
[竹林篤実,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:竹林篤実(たけばやし・あつみ)

東大寺学園高校卒業、京都大学文学部卒業。印刷会社営業職、デザイン事務所ディレクター、広告代理店プランナーなどを経て、2004年にコミュニケーション研究所の代表。ブログ:「だから問題はコミュニケーションにあるんだよ


 ワコールが「胸を小さく見せるブラ」をネット通販だけで売り出したのが、4月下旬のこと。これがバカ売れした。初回販売分は1週間で完売、「主力品の発売直後の同期間と比べ12倍以上だ」(日経産業新聞2010年7月16日付1面より)という。

 しつこいようだが、胸を“大きく”見せるブラの間違いではない。わざわざ“小さく”見せるためのブラである。「おかしいではないか」とストレートに異議申し立てに走ってしまうのは、自分がおっさん思考にはまっているからだろう。

 ブラと言えば、大きい人はそれなりに、小さい人は少しでも大きく見せるために、あるいはフォルムを美しく整えるために、が常識だと思っていた。しかし、そうではないのである。その証拠に、小さく見せるブラは売れている。

 一時は在庫がなくなり次第、販売終了とも言われていたようだが、8月には、豊かなバストをコンパクトに見せるブラジャー『CuCute(キュキュート)』が発売された。小さく見せたいニーズは確実に存在するのだ。

「小さく見せたい」ニーズは4位

 このブラが開発された背景には、ワコールが実施している調査結果がある。調査によると、バストを小さく見せたい人が全体の1割程度いたようだ。ニーズ順位でみると4位だったらしい。

 既成概念にとらわれていれば、その思考回路は次のようになるはず。すなわち、「あえて、バストを小さく見せたい人などいるはずがない」→「実際に調査結果でも1割しかいない」→「その程度のニーズに応えて製品化しても、採算ラインには乗らない」。

 しかし、ワコールで、この製品開発に関わった担当者は、まったく違う考え方をしたのだろう。つまり、「調査で1割もの人が、バストを小さく見せたいと思っているのなら、その背景には、もっと多くのニーズがあるかもしれない」と推測したのではないか。

 偉いのは、そうした発想に基づく製品企画を通すワコールの社風だと思う。

ユニセックスからの転換

 ともかく、小さく見せるブラはヒットした。これを受けてネット限定通販ではない商品『CuCute(キュキュート)』も発売された。ワコールとしては、通販での売れ行きにかなりな手応えをつかんだからこその展開だと思う。

 ここで考えてみたいのは、「バストを小さく見せたい」ニーズの背景にあるかもしれないパラダイムシフトについてだ。ここから先は、完全に筆者の独断と偏見に基づく仮説である。

 少し前に「ユニセックス」なる言葉が広まったことがあった。その本来の定義は、男性らしさ、女性らしさをあえて誇示するのではなく、男女どちらでも着ることのできるファッション、といった意味合いだったと思う。これは中性的と表現しても良いだろう。

 注目したいのは、そのニュアンスである。ユニセックスからアグレッシブさを感じることはない。あくまでも中立的というか、無色透明というか。流れにたゆたうようなイメージである。

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