Googleのユーザー至上主義から学ぶ企業プロモーションの在り方デジタルPRの仕掛け方(1/3 ページ)

» 2010年08月12日 08時00分 公開
[野崎耕司(ビルコム),ITmedia]

 iPadやiPhoneなどのモバイル端末(デジタルデバイス)が普及の兆しを見せる中、消費者と企業のコミュニケーションの在り方も変化している。最近ではiPadを使った店頭での販売促進など、企業のプロモーションを目的としたデジタルデバイスの活用に注目が集まっている。

 ユーザーとのコミュニケーション機能を搭載したデジタルデバイスを、「デジタルメディア」と呼ぶ。特徴は、端末によって多彩な表現方法があることだ。デジタルデバイスでは、専用のアプリケーションやSNSとゲームの要素を融合させた「ソーシャルゲーム」などを利用できる。これらを開発した企業は、ユーザーに対して直接情報を発信することができる。

 企業がデジタルメディアを活用して消費者にメッセージを伝える場合は、端末ごとに異なる特徴をつかみ、プロモーション戦略を考えていくことが重要になる。具体的にはマスメディア、ソーシャルメディア、自社メディアを活用したプロモーションやWebのクリエイティブといった全体の施策を考えることになる。これを本稿では「デジタルPR」と定義し、Googleおよび味の素の事例を基に必要となる考え方や手法をひも解いていく。

Googleに学ぶ「消費者視点のコンテンツ」

 Google“さがそう”キャンペーンは、デジタルPRにおける優れた事例である。

Google “さがそう”キャンペーン Google“さがそう”キャンペーン

 同キャンペーンは、「検索ストーリーメーカー」と呼ぶツールを使ってユーザーが製作した動画「検索ストーリー」をYouTube上で募り、優秀作品を表彰するものだ。1万を超える応募作品から検索ストーリーアワードの最優秀賞作品に選ばれた「流星群」は、GoogleのテレビCMの原作として放映された。

 流星群のCMは、出演者が「ふたご座流星群」を画像検索する場面から始まる。「福岡 流星 観測スポット」のキーワード検索、「志賀島」のマップ検索、携帯電話の音声入力機能で「福岡 天気」を調べ、最後は「星空のプロポーズ、OK出ました!」という電子メールを送るシーンで締めくくられる。ここで表現された一連の検索行為はユーザーの日常を映し出し、「どんな検索にも物語があるから」というテーマを体現している。

 ここで特筆すべきポイントは、このCMにはGoogle側の一方的な主張が存在しないことだ。ユーザーから募った動画を基にしたストーリーには現実感があり、GoogleのWebサービスを利用する人からの共感を得やすい。

 Googleがこのキャンペーンを展開した背景には、同社の経営理念の1つである「ユーザーに焦点を絞れば、ほかのものはみな後からついてくる。」が影響している。この理念は「Googleは、常にユーザーの利益を第一に考える」と説明されている。

 この徹底した「利用者至上主義」こそが、ユーザーに検索の新たな魅力を気付かせるきっかけとなっている。ここでの気付きとは、「Google=新しい知的発見を得られるエンターテインメントツール」であり、「Google=便利な検索エンジン」は指さない。

 ユーザーが有益と感じる気付きを利用者視点のストーリーで示すことで、ユーザーがGoogleという企業のメッセージを代弁するという構造が成立している。利用者を巻き込んだ巧みなストーリー設計のなせる業である。

 企業のデジタルPRにおいてまず求められるのは、Googleが実現している「消費者視点に立ったコンテンツの発想」である。

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