ノーベル化学賞下村脩氏が直面した“権威”――それでも権威にすがりますか?(2/2 ページ)

» 2010年08月11日 08時00分 公開
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権威は絶対的な事実や基準に基づくものではない

 権威は絶対的な事実や基準に基づくものではなく、人々の感想や評価によって作られるものです。権威者や有力者同士は、実はネットワークでつながっていて、お互いに評価し合うことによって、権威を人為的に作り上げる、確固たるものにするということも少なくありません。

 物事は短期的な評価に重きを置くか、長期的な評価に重きを置くか、部分を見るか、全体を見るかなど、見方で大きく評価が変わります。どんなに有能な人間や権威者でもミスをすることもあります。また、ある分野での権威だからといって、万能でどの分野にも精通しているわけではありません。反対にある分野で権威にまで登り詰めるには、1つの分野に没頭せねばならず、ほかの分野のことには関心を払ってこなかったということもあります。

 筆者が携わる調達・購買の仕事は、買うモノや取引先、取引条件が最適かについて評価、意思決定するものです。モノの品質や価格などの短期的な部分の評価に重きを置くのか、開発力などの長期的な評価に重きを置くべきかは、場面によって異なります。また、品質に重きを置くか、価格に重きを置くかは、技術や製造などの現場と経営者では考えが異なったりします。

 これらは下村氏のケースで言えば、実験の仮説や問題設定、前提条件にあたります。評価や意思決定で重要なのは、何を評価、決定すべきかという問題設定であったり、どのような環境にあるのかという前提条件の正確な認識です。認証やブランド、一般的な人気、「10年前に社内のエースが決めたこと」などの権威は、モノサシの1つにしかすぎません。

 評価や意思決定の際には、安易に権威に頼るのではなく、その権威はどこから生じているのか、それは、自分が評価しようとしていることのモノサシになるのかを見極める必要があります。

 どんな権威に頼ろうと、その意思決定の結果は多かれ少なかれ自分に降りかかってきます。不幸にもその意思決定が失敗に終わったとしても、他人が作った権威という得体の知れない曖昧なものに安易に頼った時には後悔するしかありませんが、自身の判断で答えを出したのであれば、その結果を受け止めることもできやすいでしょうし、何が失敗の原因であったか明らかになり、次につなげることもできます。

 権威は、あなたが思っているほど、確かなもの、根拠があるものでなかったりするのかもしれません。(中ノ森清訓)

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