コラム
» 2010年08月11日 08時00分 UPDATE

ノーベル化学賞下村脩氏が直面した“権威”――それでも権威にすがりますか? (1/2)

誰もが評価や意思決定の際に頼りにする権威。実はそれは絶対的なものではなく、ほかの誰かが作り出した曖昧なものです。ノーベル化学賞受賞者の下村脩氏が語った、そうした権威が作られていく過程を示すエピソードから、私たちが普段頼りにしている権威について考える。

[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 ノーベル化学賞受賞者の下村脩氏は、日本経済新聞の私の履歴書(2010年7月23日40面)で、1970年から約6年間、米国の著名な研究者と論争を繰り広げた際のエピソードを紹介しています。

 論争の発端は、その研究者がホタルの発光について後に誤りと認められた新しい説を発表したことにありました。その研究者は自身が高名であるだけでなく、全米科学財団(NSF)の元所長の夫人。NSFは米国の研究資金の元締めで、そのような影響力のある人が誤った学説を唱えられては困るという人も多く、下村氏によると公然と間違いを指摘する空気があったとのことです。

 下村氏はその研究者が間違いを悟り、自ら訂正してくれればという考えで、翌年、類似の実験を用いてその誤りを正す論文を発表しました。ところが逆に、その研究者の結論を支持する研究論文が続々と発表されます。そのほとんどが元の実験と同じ条件で行った追試に基づくもので、元の研究者が前提条件を誤って解釈していたのを、追試を行った研究者も同じ誤った解釈のまま実験したのでしょう。結果、元の実験と同じ誤った結論となっていました。

 下村氏には、それらが付和雷同的なものであるとしか思えなかったとのことです。その中にはノーベル賞をもらうような著名な研究者も含まれていました。下村氏は自説に基づく論文を何報か提出し、論争に発展しますが、数の上では多勢に無勢で、一時はつらい立場に立たされたとのことです。その時期、著名な論文誌に投稿をしても、「急いで載せる必要はない」などという納得できない理由で掲載を見送られたこともあったとのことです。権威に従うのは、個を重んじる米国でもあるようです。

 最終的には、下村氏が意を決して、相手研究者と同じホタルの発光実験をしたことで、相手の誤りを実験によって証明し、論争に終止符が打たれることになりました。

 下村氏は、「真理を追究すべき科学研究の底に流れるどろどろしたものを垣間見た思いだった」とこの論争を巡る周囲の動きをこのコラムで振り返っています。真理、事実の積み重ねに基づく科学でも、結局やっているのは人間、人間がやることにはどろどろしたものが付きものといったところでしょうか。

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